06/05/09
■ 真菌と細菌を判別するテスト
【質問】
 ■■大学の大学院生の●●と申します。微生物実験の経験は半年程度と浅いです。

 現在, 淡水環境サンプルを Tripticase Soy Agar に接種し, 菌を単離して簡易同定システムで種の同定を行っています。環境中の菌組成を調べる目的ではなく, 分離した菌を植物・動物・細菌プランクトンで構成される実験生態系で使う目的で分離していますので, 主な菌を分離して同定できればよいという程度です。単離した菌を簡易同定システムで同定しますが, システムを利用する前に, 酵母と糸状菌, グラム陰性菌, グラム陽性菌を自分で判別しなければなりません。菌がグラム陽性の場合, 真菌とグラム陽性菌の判別が難しく, 困っています。形態から糸状菌であると強く示唆される場合でさえも, 経験が浅いために自信を持ってそうだとはいえません。

 グラム染色やオキシダーゼテスト, カタラーゼテスト, あるいは培養試験のように, 真菌とグラム陽性菌を明確に識別できるような簡易テストはないでしょうか??? なお, 顕微鏡は400倍までしかありませんので, 小さな細胞の場合は真核か原核かは良く分からないかもしれません。よろしくお願いします。

【回答】
 1970年以前の微生物分類はエネルギー獲得方法で5つのKingdom (原核生物, 植物界, 動物界, 真菌, 原生生物) に分けられていましたが, 1980年以降はリボソームRNA配列で大きく3つのImperium (Eubacteria, Eucarya, Archaebacteria) に分類されるようになりました。Eubacteria (真正細菌) にはグラム陽性細菌, グラム陰性細菌, 緑色硫黄細菌, 好熱嫌気性菌などが含まれ, Eucarya (真核生物) にはカビ類などの真菌, 植物, べん毛虫類, 微小胞子虫類などが含まれました。細菌は光学顕微鏡で確認できる大きさ (0.2_2μm) で球形, 桿状, ラセン状形態を示し, 人工培地で2分裂増殖する栄養系単細胞微生物であり, 3_5μm胞子の出芽や分岐菌糸として発育する真菌と鑑別されています。種の同定を含めたこれまでの鑑別検査は, 形態特徴や発育性, 生物学的性状試験などで進められていましたが, 鑑別困難な場合も多く, 現在では16SrRNAの配列を既存のdatabaseと比較し, 98%以上の類似性で同定しています。故に, 分離微生物について正確な種の同定を望むのであれば, 遺伝子検査からスタートすることを推奨します。質問者は簡単な鑑別を望んでいるようですので, 大まかに篩い分けるするなら, まず経験を積むことではないでしょうか。微生物検査の基本, すべてを, このコーナーで解説することは不可能ですので, 各種の参考菌株を入手し, ご自分で経験することから始めてください。大学院生とありますが, 学部や専門性の詳細, これまでの経験もわかりませんので, まずは指導教官に相談してください。できれば100倍率の対物レンズを買ってもらってください。

(大手前病院・山中 喜代治)

【追加回答】
 400倍の光学顕微鏡しかない状況で, 細菌と真菌を鑑別するとすれば, 菌体の大きさを指標とするしかないでしょう。回答者が記載しているように, 細菌は真菌より小さいというのが一般的です。しかし, 炭疽菌のように1〜2μm×3〜5μmといった非常に大きな細菌も存在します。最終的な確認には, 特に環境由来の真菌を取り扱うには, 遺伝子同定が必要となることを心得ておいてください。

(琉球大学・山根 誠久)

【質問者からのお礼】
 詳しいお返事どうもありがとうございます。きちんと同定するには, やはり遺伝子検査が必要なのですね。遺伝子検査と100倍対物レンズの購入を検討してみます。ありがとうございました。


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