05/01/11
■ 酒精綿について
【質問】
 酒精綿に関する質問です。よろしくお願いいたします。

(1) 酒精綿と表記しても, メタノールではなく, イソプロピルアルコールで作成している病院が多い印象を受けます。メタノールのほうが, 一部のウイルスにも効力があり, より強力と思われるし, 誤表記であるので, “イソプロ綿”などの呼称にすべきと思われますが, このままでもよろしいのでしょうか???

(2) メタノールによる酒精綿とイソプロピルアルコールによる綿との比較検討のデータを見たことがありません。ご存じでしたらお教えください。

(3) 病院で酒精綿を作成する場合,「無滅菌の脱脂綿」で作成しても構わないのでしょうか???「滅菌済みの脱脂綿」で作成するものだと思っておりましたので, 困惑しております。お教えくださいませ。

(4) もし, 滅菌済みの脱脂綿で作成する必要がある場合, 病院向けの単なる「脱脂綿」には「消毒用の酒精綿を作るには適しておりません」などの表示が必要ではないでしょうか???

【回答】
 質問者の「メタノール」は以下「エタノール」と置き換えて回答いたします。その理由は, 通常消毒で用いられるのは「エタノール」であり, 免税措置を受けるためにメタノールを添加することはありますが, メタノール単独で消毒薬として使用することは通常ありえないからです。

 「アルコール」は, 広義にはメチルアルコール, エチルアルコール, イソプロピルアルコール (イソプロパノール) など, アルコール類の総称です。アルコール, エタノール, エチルアルコール, 酒精とそれぞれ呼び方は違いますが, 同じ物です。「エタノール」は国際化学命名法の呼び名で「エチルアルコール」は慣用名,「酒精」は日本語の名称です。

 アルコールの種類が,「エタノール」であるか,「イソプロピルアルコール」であるかは臨床上の有効性や安全性に大きな差異はなく(参考文献を参照), 敢て名称を分ける必要性はないと思います。「イソプロピルアルコール」が多用されている理由は, 消毒用エタノールなどの医療機関向け市販価格には酒税加算額が含まれていますが, イソプロピルアルコールはそれが免除されているからだと推測します。消毒用エタノール, 70 v/v%イソプロピルアルコールの有効性, 安全性に大きな差異はなく, どれを選択するべきである, あるいは選択するべきでないと一概に判断することはできません。特別な医学的理由がある場合を除いては, 経済性, 使用感, 利便性などを考慮して, 個々の医療機関の状況に応じた実務的な選択をすることが妥当と思われます。

 脱脂綿とは, 文字通り, 脱脂 (油分を抜いた) された綿のことです。脱脂綿の製法は, 混打綿・・すき綿・・精錬漂白 (0.5〜1% 水酸化ナトリウム溶液中で4〜5時間, 100〜130℃で煮沸脱脂し, 次亜塩素酸で漂白)・・乾燥 (熱風乾燥法)・・包装したものです。製法過程から, 微生物学的な汚染の可能性は極めて低く, 酒精綿を作るのに, 特に支障はないと考えます。

〔参考文献〕
(1) 白石正,丘龍祥,仲川義人: エタノール, イソプロパノール, メタノール変性アルコール製剤に関する殺菌効力の検討. 環境感染13: 108〜112, 1998.
(2)浦工,青木孝夫,福武勝彦: 低級アルコール製剤の消毒作用に関する検討 (第1報) 基礎と臨床 31: 23〜29, 1997.
(3) 野田伸司,渡辺実,山田不二造,藤本進: アルコール類のウイルス不活化作用に関する研究: ウイルスに対する各種アルコールの不活化効果について. 感染症学雑誌55: 355〜366, 1981.

(琉球大学・糸嶺 達)

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