05/05/27
■ 耐性遺伝子について
【質問】
 初めて質問させていただきます。妻が検査技師なもので, 片手間に細菌検査の本にかじりついている日々です。とある教科書的な本を読んでいて, 細菌が獲得する耐性遺伝子のところで疑問があり, 質問させていただくことにしました。どうぞご教授ください。

 “細菌の本来持っている染色体にプラスミドが組み込まれることがある”とありました。このことは, (1) プラスミド由来のβラクタマーゼであるクラスが染色体へ移行することも可能性として示唆しているのではないかと思うのですが, いかがでしょうか。また (2) 染色体由来のときとプラスミド由来であるとで臨床上何か留意すべき点などはあるのでしょうか。

まったくの素人の質問なので支離滅裂かもしれませんが, どうぞよろしくお願いいたします。

【回答】
 細菌検査に関する教科書などの書籍を読んでのご質問と受け取らせていただきました。ややこしくならないように, 極々簡潔に要点のみ記させていただきます。

 プラスミドは, 細菌細胞の染色体とは独立して, 細胞質に存在する複製可能な遺伝単位です。プラスミドの本体はDNAで, 自己複製に必要な遺伝子以外に種々の遺伝子が存在して, プラスミドを獲得することにより, 種々の遺伝形質が付与されることになります。プラスミドには実にたくさんの種類があって, 細菌の性 (雌雄) を決定する「Fプラスミド」や薬剤耐性を付与する「Rプラスミド」, それから病原性に関与する「病原性プラスミド」等々があります。ご質問にもありますように, これらのプラスミドは細胞質中に存在しているばかりでなく, 染色体の中に組み込まれるものもあります。例えば,「Fプラスミド」が細胞質から染色体に組み込まれると, 驚くほど高頻度に遺伝子の組み換えを起こし易くなる形質を獲得するようになります。また「Fプラスミド」の染色体への組み込みは結構な頻度で起こるのです。

 ところで, ご質問の薬剤耐性に関係する「Rプラスミド」は, 種類も実に多く, またその大きさも様々ですし, 薬剤耐性遺伝子の種類も多彩です。「Rプラスミド」も勿論, 染色体へ組み込まれることが知られていますが,「Fプラスミド」などと比較すると, “その組み込まれる頻度は比較にならない程に低い”のです。しかし, 緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)が保持している「Rプラスミド」では, 比較的高頻度に組み込まれるものが知られています。ということで・・・

(1) のご質問ですが, プラスミドが組み込まれて, プラスミドDNAにコードされていたβ-ラクタマーゼ遺伝子が染色体上に乗ってしまうことはあり得ます。しかし, 組み込まれる頻度は極めて低いと考えられます。

(2) のご質問ですが, 遺伝子の存在部位が「細胞質」なのか「染色体」なのかで, 臨床的に区別することはないと思います。例えば, 毒素産生遺伝子がどちらに存在しても毒素を産生するということには変わりがないからです。でも, 薬剤耐性に関与する「Rプラスミド」の場合では,「誘導的」に不活化酵素を産生していたものが染色体に組み込まれることによって「構成的」に薬剤不活化酵素を産生するようになってしまうことがあることも知られていますので注意が必要です。いずれにしても, 治療方針自体が本質的に変わってしまうことは考えられません。

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 非常に簡潔なご回答ありがとうございました。臨床的に重要なポイントと微生物学的に重要なポイントの交差点を垣間見た気がします。今後もまだまだ関連書物に釘付けになりそうです。
 


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