06/09/03
06/10/11
■ 塗沫検査での貪食像について
【質問】
 細菌塗抹検査で, 背景にはあまり細菌が認められず, 好中球が「1+」くらいで扁平上皮が少量認められました。そしてグラム陰性桿菌が1つだけ白血球に貪食されていて, 他には貪食像を認めない場合, それは貪食ととらえていいのでしょうか。いつも2枚ずつ染めていて, もう一枚も観察したら同じ菌が同様に1つだけ貪食されており, 他には認めませんでした・・・(つまり背景に1個でも貪食像を認めた場合は“貪食あり”とするのか, 2個以上認めないと貪食としてとらえないほうがよいかということです)・・・初歩的な質問でお恥ずかしいですがアドバイスをお願します。

【回答】
 “一個でも貪食像を認めた場合は「貪食」とするのか,2個以上貪食像を認めないと貪食としてとらえないほうがよいか”という質問ですが,初歩的どころか究極の質問ではないかと思います。本当の“貪食像”か否かの判断は起炎菌推定において重要な問題でますが, 明確な線引きをしにくい問題でもあります。貪食を考える場合, いくつかの段階があると思いますが, (1) 明らかに自信を持って「貪食像」と報告できる所見,(2)「貪食像が疑われる」という所見,(3) 白血球内に菌は認められるものの「貪食像か否かは判断しかねる」といった所見など, 様々なパターンがあります。それぞれの段階ごとにコメントの内容を使い分けるという手段もありますが, グラム染色だけで“白か黒か”を判断するのは困難であるのも事実です。

 回答者の施設で経験した貪食像 (「感染症診断に役立つグラム染色」より) の写真を示しながら, いくつかの貪食像について説明します。

 この写真は喀痰中に認められたMoraxella(Branhamella) catarrhalisです。背景には多数の多核白血球が認められ, 白血球の細胞質内には多くの菌が取り込まれています。かつ菌を貪食した白血球も複数認められ,“貪食像あり”と自信を持って報告できる所見ではないかと思います。ただし白血球内に見えるすべての菌が貪食されているとは限らず, 上にのっているだけの菌も存在すると考えられます。勿論これだけ細胞内にある菌の比率が高ければ, 貪食像と考えて問題はないと思いますが, 菌の量と貪食細胞 (白血球) の量が少ない場合には判断が難しくなります。できるだけ数多くの視野を見て, 選択的に白血球内に見える菌を見極めて行く必要があると思います。

この写真は膿汁中のStreptococcus anginosusです。貪食細胞 (白血球) の数が少なくても, 写真のように白血球の細胞質の形に添って菌が観察できれば, おそらく白血球に取り込まれた (貪食された) のであろうということは推定できると思います。

 これは穿刺液中の黄色ブドウ球菌です。菌の量が少なく, 白血球も少ない場合の判断は難しくなりますが, 写真のように周囲には菌がほとんど認められず, 白血球内に限局して菌が観察されるような所見は貪食を疑う一つの指標になると思います。

 これは喀痰中の肺炎球菌です。肺炎球菌やβ溶血連鎖球菌は貪食を受けると染色性が低下する傾向が認められ, 写真のように染まりが薄くなることがあります。貪食殺菌を受けた結果と推測され, 菌が貪食されたことを示す特徴の一つだと思います。強くグラム陽性に染まっている菌は, 白血球の上にのっているだけなのか, 貪食を受けた直後の菌であるのかは判断できません。ただしブドウ球菌や“milleri”グループの連鎖球菌などは, 貪食を受けてもほとんど染色性に変化は認められませんので, すべての菌種に共通した特徴ではありません。

 この写真は膿瘍内に認められたStreptococcus constellatusです。白血球の細胞質内に見えるグラム陽性球菌の周囲に空胞が観察されます。ファゴソーム(phagosome: 食胞または貪食胞)と思しき所見です。グラム染色だけでファゴソームと言い切ることはできませんが, 細胞の食作用によって形成された食胞が認められれば, 貪食像を強く疑います。ただしこのような所見が認められることは比較的稀です。

 以上, いくつかの貪食のパターンを示しましたが, 一般的には貪食が疑われる細胞 (白血球) が複数, 2_3個以上認められたときに“貪食”という言葉を用いた方がよいように思います。一個だけでは偶然ということもあり得ますので注意が必要です。また無菌的に採取された材料であるのか否かも問題になると思います。質問で示されました事例は検査材料は何だったのでしょうか??? 炎症細胞が少なく, 扁平上皮も少数認められるのであれば, 判断は非常に難しくなります。主治医に見たままの状態を伝えて, 相談してみたらいかがでしょうか。

 もう一つ注意しなければならないことは, ムコイド型肺炎球菌やムコイド型緑膿菌のように, 貪食を受けにくい菌も存在するということです。たとえ貪食像がなくとも, 多数の白血球と交じり合って存在する菌には注意する必要があります。

引用文献:「感染症診断に役立つグラム染色一実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス一」(日水製薬)

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 先日, 質問をした者です。質問に分かりやすくお答えいただき有難うございました。非常に為になり, 現在教えて頂いたやり方で貪食像の評価をしています。本当に有難うございました。また分からないことがありましたら, ご迷惑おかけすると思いますが, 宜しくご鞭撻の程, 御願い致します。


戻る