■ 塗沫のみ陽性の抗酸菌症 | |
【質問】
お忙しいところ恐縮ですが質問をお願い致します。 抗酸菌性脊椎炎の幼児例を経験しました。頸椎からの発症で, open biopsyで得た頸椎前方に貯留した膿は“細菌塗抹で抗酸菌が陽性”でした。しかし, 液体培養は陰性で, PCR法ではM. tuberculosis, M. avium, M. intracellulare, M. kansasii, M. scrofulaceum, M. abscessus, M. gordonaeはいずれも陰性でした。病理像からは結核が疑われ, INH, RFP, PZA, SMで治療を行い, 軽快しました。抗結核薬が有効であったことから, 結核菌, BCG菌, 抗結核薬が有効な非定型抗酸菌のいずれかによる感染症と思われました。臨床的には抗酸菌感染症で間違いないと思っていますが, 細菌塗抹が陽性にもかかわらず, 液体培養とPCRのいずれも「陰性」という結果に今ひとつ納得がいきません。細菌検査室からは「菌体量が非常に少ない場合はそのようなこともある」と説明を受けましたが, そのように考えてよいのでしょうか??? あるいは検体の取り扱いも含め, 他の要因も考えられるでしょうか??? 御教授よろしくお願い致します。 【回答】
・しかし, 培養検査やPCR検査などが陰性であった。これをどのように解釈するのか・・・塗抹検査が陽性であるならば, 検体内の抗酸菌は相当数含まれていたと考えます。検体量が少ないから, 陰性になったとの説明には問題が残ります。通常ならば, 塗抹陽性の検体ならば, 培養法とPCR法の両法が陽性, あるいはどちらか一方が陽性となってもよいと思います。 ・何故, 陰性の結果になったか・・・いろいろな要因がありますが, 次のようなことも推定されます。液体培養では, 生菌ではなく, 死菌である場合には発育できません。また生菌がいても, 検体の前処理が不適切であったり, 生菌数が少ない場合など。しかし, PCR法はご存じのように感度と特異性にすぐれており, 塗抹で陰性となるような菌数でも陽性になり, 死菌であっても標的遺伝子が含まれていれば陽性となります。抗酸菌が存在するのに陰性となるのは, PCRの増幅が何らかの阻害物質の影響により, 標的遺伝子の増幅が不可能である場合です。場合によっては, 操作ミスも起こります。このように塗抹検査と培養, PCRでの成績に乖離が見られることは, 日常検査では時には見られます。このため, 細菌の培養もすべてが成功する訳でありませんので, 検査は1回のみでなく再検を行うことも必要です。臨床微生物検査では生きた微生物を取り扱いますので, 検体の取り方, 検体量, その扱い方や抗菌薬の使用の有無などが検査結果に大きな影響を与えます。 塗抹検査で抗酸菌陽性とありますが, 菌数 (ガフキー号数) はどの程度でしたでしょうか。細菌検査はどこでされたのでしょうか。自施設あるいは検査センター (外注検査) でしょうか。検査精度をチェックする必要もありますので, 今後も依頼した抗酸菌の培養成績についてfollow upして下さい。 (近畿大学・古田 格)
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