05/08/03
05/08/04
■ 薬剤感受性試験に関してふたつの質問
【質問】
 今回は教えて頂きたいことがあり, メールいたしました。

 ひとつはBacillus cereus (血液培養より検出したものに関してだけ) の薬剤感受性をして欲しいとドクターから頼まれたのですが, NCCLS(今は名称が変わりましたね) に準拠した方法やカテゴリーがないと私は解釈しているのですが・・・どうしたらいいのでしょか??? MICだけ測定したらいいのでしょうか??? また, するのであれば何の薬剤を検査すべきなのでしょうか???

 もうひとつは, パニペネムの薬剤感受性を「ミュラー・ヒントン寒天培地」で検査すると, パニペネムが不安定な薬剤のため, “判定が難しい”と聞いたのですが本当ですか??? 」っと尋ねられました。私はそういうことを聞いたことがなかったので, 逆に「そんなことがあるのですか??? 」っと尋ね返してしまいました (笑)。本当にそんなことがあるのでしょうか。

 すみません, 勉強不足で・・・。

【回答】
(1) Bacillus cereus の薬剤感受性試験
 確かにNCCLS (現CLSI: Clinical and Laboratory Standards Institute) はB. cereus に関する薬剤感受性試験の方法に言及していません。しかし同一菌属のBacillus anthracis の測定方法が記載されていますので, それに準じて測定することは可能と考えます。下記にCLSIの微量液体希釈法によるB. anthracisの測定条件を記載します。

 測定培地: Cation-adjusted Mueller-Hinton broth (CAMHB), 接種菌液: 直接菌集落を釣菌し, McFarland #0.5濁度に調整, 培養温度および時間: 35℃, 通常大気で16〜20時間培養して菌発育終末点を判定する。

 ただ, 測定されたMIC値をどのように判読するかという点が問題です。B. anthracisの定性判定カテゴリーはPCG, TC, DOXY, CPFXで設定されていますが, B. anthracis以外のBacillus 属には適応できません。検査室としてはMIC値をそのまま報告するのみです。また試験薬剤ですが, 通常B. cereusはβ-lactamase を生産し, PCG, ABPC, セファロスポリン系薬剤に対して耐性を示します。しかし多くの菌株はCLDM, EM, CP, VCM, アミノ配糖体系薬剤には感性を示します。 B. cereusには定性判定カテゴリーはありませんが, 血液培養由来の B. cereus の薬剤感受性成績報告ではWeberが報告しています。参考にして下さい。

[参考文献]
Weber DJ, Saviteer SM, Rutala WA, Thomann CA: In vitro susceptibility of Bacillus spp. to selected antimicrobial agents. Antimicrob Agents Chemother. 32: 642〜645, 1988.

(2) パニペネムは不安定な薬剤で, Mueller-Hinton Agarでは判定が困難
 同じ系統のIPMを寒天平板希釈法でMICを測定する場合には薬剤が不安定なため, 寒天培地を作成してから48時間以内に試験しなければならない基準があります。しかし質問では, 薬剤感受性試験の方法 (ディスク拡散法 or 微量液体希釈法) が記載されていませんので明確には回答できません。しかし, ディスク拡散法にしろ, 市販されている乾燥型プレートでの微量液体希釈法であれば, 培養時間が48時間を超えなければ特に問題が生じるとは考えられません。一般に薬剤感受性試験で誤判定 (判定困難も含む) を招く原因は, 不適当な薬剤溶解液の使用, 不適当な保存法, 培地pHや培地性能のロット差などです。薬剤感受性試験にMueller-Hinton培地が使用される理由は個々の培地のロット間差が少ない, サルファ剤, TC系薬剤の阻害活性が少ない, 多くの菌種の発育を支持する, 試験データが多いなどの理由です。

(琉球大学・仲宗根 勇)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 無理なお願いで申し訳ありませんでした。大変, 勉強になりました。ありがとうございます!


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