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【質問】
いつも勉強させていただいております。私は大学で実験補助をしておりますが,
細菌の同定に16S rRNA遺伝子配列の相同性を基準に行っています。そこで質問なのですが,
細菌の染色体DNAには16S rRNA遺伝子配列を含むリボソームRNAをコードする“rrnオペロン”が複数存在すると聞きました。
(1) 1種のバクテリア染色体上に存在する“rrnオペロン”同士はまったく同じ配列なのでしょうか???
(2) 1種のバクテリアに由来する“rrnオペロン”の異なるコピーで, 16S rRNA遺伝子配列の相同性が99%以下になることはあるのでしょうか???
(3) このような分類に関する“rrnオペロン”の相同性について文献がありましたら教えてください。
【回答】
細菌の染色体DNAには16S rRNA遺伝子配列を含むリボソームRNAをコードする“rrnオペロン”は,
菌種によっては複数存在する場合もあります。これは国際塩基配列データベース
(GenBank/EMBL/DDBJ) に登録されているゲノム配列より明らかです。
〔質問1〕
複数のrrnオペロンのうち, あるコピーにおいて塩基の置換が生じた場合には各々のrrnオペロンは異なる配列をもつことになります。16S
rDNA配列の決定を行なわれているとのことですが, その過程において一つの塩基を「A,
T, G, Cの何れかに断定できない」というケースがあるかと思います。この場合には混合塩基で標記することが国際的に定められていますが(例:
IUBコード Y=CまたはTなど), これは異なる配列をもつ複数のrrnオペロンが存在することに起因します。回答者も,
検査依頼で配列を決定する際に, 混合塩基で報告することは珍しくありません。また,
混合塩基の数が20塩基を超えたこともあります。異なる配列をもつ各々のrrnオペロンの配列を決定する場合には,
クローニングによる解析が有効になります。
〔質問2〕
上述のように, 各コピー間の16S rRNA遺伝子配列の相同性が“99%以下”になることは十分に考えられます。一例として,
Caldicellulosiruptor
acetigenus 1) は2種の異なる16S rDNA配列をもち, その配列間には約1,500
bpのうちの1%以上となる17塩基が異なるとの報告があります。また, 古細菌ではありますが,
Haloarcula amylolytica 2) は3つの異なる16S rDNA配列をもち,
それらの相同性が95%を下回るとの報告もあります。
〔質問3〕
回答者の知る限り“rrnオペロンの相同性”について言及した報告はありません。上述の例も,
種を提唱するための論文であり, その中で同一の株で異なる16S rDNAの配列が存在するとのデータが掲載されているのみで,
その理由などについては言及されていません。
〔参考文献〕
(1) Onyenwoke RU, Lee YJ, Dabrowski S, Ahring BK and Wiegel J: Reclassification
of Thermoanaerobium acetigenum as Caldicellulosiruptoracetigenus
comb. nov. and emendation of the genus description. Int. J. Syst. Evol.
Microbiol., 56: 1391〜1395, 2006.
(2) Yang Y, Cui HL, Zhou PJ and Liu SJ: Haloarcula amylolytica
sp. nov., an extremely halophilic archaeon isolated from Aibi salt lake
in Xin-Jiang, China. Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 57: 103〜106,
2007.
(テクノスルガ・ラボ・半田 豊)
【質問者からのお礼】
先日, 細菌のrrnオペロンについて質問を差し上げたところ, 丁寧な回答を頂きましてありがとうございました。早速,
教えていただいた論文を読んで勉強したいと思います。
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