■ Aeromonas属の菌種同定 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【質問】
初めまして。検査センターで細菌の検査をしている■■といいます。 Aeromonas属の同定についてお伺いします。最終同定に同定キット「API20E」を使用したところ,「Aeromonas hydrophila/caviae/sobria」と同定されました。この3菌種のうちの1菌種に鑑別したいのですが, どのような確認試験を実施すれば鑑別できるのか教えてください。よろしくお願いします。 【回答】
なお, 表の中の用語について簡単に説明しておきます。遺伝子間の関係が菌種レベルにあるものをGenospeciesといい, 一部の例外を除けば表現型形質により分類された菌種, つまりPhenospeciesとして他の菌種と識別可能なものです。また, Genospecies, Phenospeciesのいずれでも, 命名規約に準拠して正当に与えられた菌種をNomenspeciesと呼称します。 また, 表の中で◎印を付したものが, ヒトからの分離例が報告されているものです。つまり, ◎印のない菌種はヒトからの分離例は確認されてない菌種です。ここで, Aeromonas sobria (DHG 7) がヒトからの分離がないことに疑問を持たれるかと思いますが, ヒト由来のAeromonas veronii には二つの生物型があります。つまり, A. veronii biovar sobriaとA. veronii biovar veroniiです。そして, 従来はPhenospecies A. sobriaとして扱われて来た菌種は, DHG 8のA. veronii biovar sobriaと同一であることが判明しております。つまり, 表に示しましたDHG 7のA. sobriaは, ヒトからの分離は知られていないので, 混同しないように注意することが肝要なのです。質問者の文面からは, 菌株の由来が判りませんが, もしヒト由来株だとすれば, 最初からA. sobriaは考えなくてもよろしいかと思います。またここで, DHGでは明確に識別されているにも拘わらず, 菌種名が未だ与えられていない菌種 (DHG 11/DHG 13) があることが判ります。遺伝学的に分類可能でも, 表現形質から識別不能ではだめなのです。つまり, 菌種名が提案された菌種は, 生化学的/生理学的などの表現形質から鑑別性状が示されることが必要になるのです。 今日のAeromonas属の分類は, Genospecies単位で認識されて来ています。しかし, 日常の微生物検査で汎用されている市販のキット製品や自動同定機器で, これらの最新の分類に完璧に対応しているものは残念ながらありません。必然的に興味ある症例を見逃すことに直結し, Aeromonas属感染症の正確な把握を困難にしている可能性があると考えています。回答者は既にA. jandaeiに起因する髄膜炎の世界初の症例 (文献1) を報告する機会がありましたが, 最新情報を知らなかったら必ずや見逃していた症例でした。 最後に, 既に私たちが開発/評価し, 日常の検査に便利な各種の臨床材料由来Aeromonas属 (Plesiomonas shigelloides, Vibrio cholerae, V. mimicusなどを含む) を同定するためのシェーマ (Aeroscheme=アエロスキーム) を以下に示しますので参考にして下さい (文献2)。さらに, 日常の臨床微生物検査に活用していただければ幸いに思います。 アエロスキーム (Aeroscheme): 臨床材料由来Aeromonas属同定用シェーマ 〔参考文献〕
(信州大学・川上 由行)
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