09/10/13
■ A群溶連菌の同定
【質問】
 ●●県の中核病院に勤務する臨床検査技師です。

 当院では, 連鎖球菌はストレプテックス (三菱化学ヤトロン) を用いて簡易同定しています。A群陽性ならS. pyogenesと同定結果を入力しています。今回たまたま, 連鎖球菌をストレプテックス (三菱化学ヤトロン) とWalkAway (シーメンス) を用いて同定しました。ストレプテックス (三菱化学ヤトロン) でA群陽性であったにもかかわらず, WalkAway (シーメンス) で“β-Stre-non A, B”と同定しました。シーメンスが米国に結果の問い合わせを行ったところ, 本菌はS. dysgalactiae subsp..equisimilisとのこと。文献によれば,「A群抗原を保有し, 劇症型溶血性連鎖球菌感染症の診断基準を満たす」とありました。

 さて質問ですが:
 血液, 軟部組織等の材料で, 「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」を疑う場合は同定したいと考えますが, 喀痰等の材料から分離された連鎖球菌はストレプテックス (三菱化学ヤトロン) のみを用いて同定してもよいのか??? その際、A群陽性になったときは菌名はS. pyogenesとして報告してもよろしいのでしょうか???

【回答】
(1) A群抗原を保有するStreptococcus dysgalactiae susp. equisimilis
 Streptococcus dysgalactiae susp. equisimilisはLancefield群特異抗原A, C およびG群を保有するとされていますが,臨床材料から分離される菌のほとんどがG群ないしはC群保有株です。近年A群抗原を保有するS. equisimilisの報告例が散見されるようになり,当院においても2例ほど分離しています。あくまでA群抗原保有株を詳細に同定して確認した菌株の成績であり,実際にはStreptococcus pyogenesとして報告されているA群抗原保有のS. equisimilisが潜在的に存在するものと推測されます。咽頭ぬぐい液や喀痰等からの分離菌については,多くの場合,集落の溶血性とバシトラシン感受性試験あるいはLancefield群特異抗原の検出のみで同定しているため,A群イコールS. pyogenesというイメージが定着しています。

(2) 喀痰等の材料から分離された連鎖球菌はLancefield群特異抗原のみで同定してもよいのか???
正確に言えば,A群抗原陽性で他の鑑別試験を実施していないのであれば,A群β-Streptococcusと報告すべきと考えます。しかし,材料が喀痰や咽頭粘液等の場合の報告についてはA群抗原陽性の成績のみでS. pyogenesと報告している施設は多いものと考えられます。費用対効果を考えれば臨床的にはそれで良いのかも知れませんが,各施設での取り決めとして,“喀痰等から分離されたA群抗原陽性の溶連菌はS. pyogenesと報告します”ということを臨床側に納得していただければよいのかも知れません。あくまで貴施設での意思決定としてですが。また他の溶連菌とS. pyogenesとを簡便に鑑別する試験としてPYR(pyrrolidonylarylamidase)試験があります。S. pyogenesが陽性で,それ以外の溶連菌は陰性です。また“Streptococcus milleri”(S. anginosus) groupの一部の菌もA群抗原を保有することがありますが,本菌群もすべてPYR試験は陰性です。スワブに試薬をしみ込ませたPYR試薬が幾つか市販されており,製品の種類にもよると思いますが,スワブで集落をかきとって5分程度反応後に判定試薬を加えるだけで検査可能です。同定キットを使うより安価でもあります。この試験を追加することでS. pyogenesの鑑別は可能であると考えられます。補足ですが,A群溶連菌の鑑別試験として使用されるバシトラシン感受性試験には例外があり,S. equisimilis の中にも感受性と判定されてしまう菌株(特にG群保有株に多い)が存在するため,単独での使用には注意が必要と考えられます。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)

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