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【質問】
アメリカに在住しています。13歳の娘が検診でTB反応陽性, 再テストの結果,
発症はしていませんが, 菌保持ということで「INH」と言う薬を9ヶ月間飲むようにと,
かなり強制的に指示されています。娘は至って健康で, これまでほとんど風邪もひかず
(1年に1度軽い鼻風邪程度), 抗生物質などほとんど飲むことはありません。人口の3人に1人が菌陽性で,
そのほとんどが発症せず・・・と聞きますが, INHを9ヶ月服用するべきなのでしょうか???
INHはかなり強い薬だと思いますが, 13歳の子供に9ヶ月与えたリスクはどんなものでしょうか???
ご回答, どうぞ宜しくお願いいたします。
【回答】
結核菌に感染しても多くの人は身体の免疫能により結核菌を封じ込め, 生涯発病することなく経過します。感染者で発病するのは約10%とされています。そのうち6〜7%は感染後2年以内に発病し,
残りの3〜4%はその後に種々の疾患等により免疫抵抗力が減弱して発病します。一方,
結核菌に感染する人は昔に比べて減少し, 1980年には20歳までに7.8%が, 50歳までには64.9%が感染していましたが,
2010年の感染率は, 20歳で1.4%, 50歳でも9.9%と予測されています。結核菌の感染を受けているが,
活動性の結核を発症していない人に, 抗結核薬を用いて発病を防ぐ治療が行われます。それにより60〜75%の人に発病予防効果が得られるとされます。以前は「化学予防」と呼ばれ,
予防的な薬剤投与とされていましたが, 現在は「潜在的結核感染治療」と位置付けられています。特に米国では,
2000年から「潜在的結核感染治療」に積極的な姿勢で臨んでおり, 9ヶ月の治療が推奨されています。日本では6ヶ月が普通です。米国ではBCG接種を行っていないので,
ツベルクリン反応で結核感染者を発見することが容易ですが, BCG接種を行っている日本では,
ツベルクリン反応陽性が人為的なBCG接種によるものか, 結核菌の自然感染によるものか,
判断が困難です。BCG接種の影響を受けないクオンティフェロンという検査を併用して確認したりします。お子さんはBCG接種歴があるのでしょうか???
ご質問にある「TB反応」がツベルクリン反応であれば, BCG接種歴があることを申告して再度判断を求めることも必要だと思います。
INHの副作用として肝障害が挙げられます。その発生頻度は, 年齢の増加とともに上昇するので,
35歳以上を対象とする「潜在的結核感染治療」は慎重に考えられています。飲酒歴やウイルス性肝障害の既往など,
肝障害のリスクの高い人を対象から除外し, 食欲不振, 吐気などの肝障害の症状が出現した場合には内服を中止することで,
肝障害の頻度は0.1〜0.3%程度とも言われています。このように副作用は非常に恐れるほどのものではありません。まずは,
BCG接種によるツベルクリン反応陽性を「潜在的結核感染」と思われて治療を勧められているのではないか否か確認することが必要だと思います。
【質問者からのお礼】
お忙しい中, 大変ご丁寧なお返事を頂きまして本当に有難うございました。私どもは米シカゴに在住しており,
娘はBCG接種歴はありません。すなわち潜在的結核感染と言うことになりますね。INHの服用は必要と言うことなのでしょう・・・アメリカは日本より感染者が圧倒的に少ないと言うことで,
日本で感染したのでは言われました (毎年夏に日本に長期帰国していますので)。身近に結核を発症している親族なども思い当たらず,
いつ, どこでと不思議です。日本では「潜在的結核感染」と診断された場合, INH服用などの治療は必ず行われるものなのでしょうか???
こちらの病院では,「もし発症した場合, 学校や地域で大問題になる・・・」などとかなり怖がらされています。病院側も治療しなかったという責任問題を回避したい思いなのでしょう。副作用がそれほど心配要らないのであれば
(こちらの病院でも定期的な検査でモニターしていくと言ってくれています) 本人も治療したいという希望もあるので,
服用をはじめようと思います。アメリカにいますと, 病院での医者とのコミュニケーションが一番の問題です。話は理解しているつもりでも,
こういった時, 日本ではどういった対処なのか・・・日本語での病名は・・・などと,
確認して安心するのが常になっています。海外にいると, 途方にくれることも多く,
先生の今回のお返事, 大変あり難く感謝の気持ちでいっぱいです。本当に有難うございました。
(琉球大学・山根 誠久)
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