08/03/19,21
Aspergillus nigerの菌数計測
【質問】
 お忙しいところ失礼いたします。普段より参考にさせて頂いておりますが, この度初めて質問させていただきます。私は●●株式会社の医薬品原薬部門の■■と申します。

 先日施行された「JP15第1追補」へ対応するようにとの指示で, 初めて微生物試験に取り掛かることになりました。さて, 第1追補では試験菌に5種の菌を指定しており, これらを用いた試験の適合性として, 試料に添加した菌数が対照に対して50%から200%の間にあることを確認するように求めています。ここからが問題なのですが, 5種の内Aspergillus nigerについて菌数をカウントすることができず困っております。

 Aspergillusは拡散コロニーを示し, 隣接するコロニー同士が融合してしまいます。接種菌数を少なくすると, コロニー同士を分離することができると思いますが, 試料の抗菌活性を評価するという本来の目的が信頼性の置けないものになってしまいます。弊社ではメンブランフィルター法を採用しておりますので, 培地にメンブランを貼付した上に新たに培地を重層して培養してみましたが, 重層した寒天培地を突破して増殖してしまい, やはり計測するに至りませんでした。“Aspergillusのコロニーを融合させないで培養する”よい手段がありましたらお教え願いたいと質問させて頂きました。よろしくお願いします。

【回答】
 まず, Aspergillus nigerを接種する場合は“胞子液”を準備する必要があります。具体的には中試験管にポテトデキストロース寒天培地で斜面培地を作製します (10本ぐらい)。そこにA. nigerを接種して20℃_25℃で1週間ぐらい培養します。充分な発育を認めたら, ポリソルベート80を0.05%の割合で添加した滅菌生理食塩水を試験管の中に入れ, 胞子を洗います。液体中に集められた胞子液をピペットで集め, 滅菌した栓付きボトルに集めます。回答者が行う方法では, これをさらに滅菌ガーゼで漉して余分な寒天などを取り除きます。この胞子液の菌数を測定すれば, 接種量と検体量から1 gramあたりの菌数が判ります。菌数測定は, ポテトデキストロース寒天平板培地 (よく乾かす) に10倍段階稀釈した胞子液の0.1 mlをコンラージ棒で塗抹します。20_25℃で培養し, 3日目当たりから観察を始めます。最初は白い小さなコロニーを認め, 培養時間が長くなるとコロニー自体が大きくなり黒い胞子を形成します。培養がさらに長くなるとコロニー同士がくっついて菌数測定は困難になりますが, シャーレの裏側から観察すると発育の“中心点”を見つけやすく, 大きな誤差なく測定できます。最後に, 初めて微生物試験を実行されるとのことですが, 微生物の取り扱いも初めてということでしょうか。もしそうであれば, 質問者がどこかで微生物の取り扱い方を習得することをお勧めします。特にAspergillusは胞子を形成するので, バイオハザードという意味で取り扱いには注意が必要です。しかも質問者自身の防御と検査結果の信頼性に関わってきますから。

(日水製薬・小高 秀正)


【質問者からのお礼】
 早速のご返答ありがとうございます。非常に丁寧な内容で参考になりました。
やはりある程度の濃度になるとメンブランフィルター法は不適切という結論になるようですね。今後, 試験法について上司と検討しようと思います。ありがとうございました。
 あと, 私の微生物に関する経歴についてですが, 以前は組み換え遺伝子の発現に関わっておりましたので, 動物細胞とK12株についてはfamiliarです。胞子を形成する菌についての取り扱いは経験がないため, その点については専門分野の方に指導を仰ぎたいと思います。これからも質問をすることがあるかもしれませんが, よろしくお願いします。ありがとうございました。


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