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【質問】
はじめまして。●●畜産試験場の■■と申します。
黄色ブドウ球菌の菌数とエンテロトキシン産生に関して質問させていただきます。“菌数が10^4でエンテロトキシン産生,
10^5〜10^6で食中毒を引き起こす”ということをよく耳にしますが, この基準というのは何を根拠に決められたのでしょうか???
(情報元を探していますが見つかりません・・・) ご回答, よろしくお願いします。
【回答】
回答者も明確な情報源がわからなかったので, 文献を検索し, 文献を取り寄せていたため時間がかかりました。「嶋田幸治ら:
脱脂粉乳による学童給食集団食中毒の検査成績について. 東京衛研研究報告, 13:
1〜16, 1956」によると, 昭和30年3月の学校給食集団食中毒でブドウ球菌が検体1
gram当たり10^5以上検出された検体は27検体中14検体であったと報告しています
(この時の検体中で最も黄色ブドウ球菌が多く検出された小学校は, 回答者が卒業した大田区立矢口小学校からの検体でした)。「寺山 武:
ブドウ球菌食中毒. 食衛誌 18(2): 142〜148, 1977」は, “まとめ”の中で, ブドウ球菌食中毒の原因食品中には,
10^6/gram以上の黄色ブドウ球菌が認められるのに, 味覚, 風味に変化を来たさず,
特殊な臭気を感じさせないので, ヒトが知らずに喫食して被害を被る結果となると記載しています。「品川邦汎ら:
国際見本市会場における食中毒について. 日本公衛誌12 (12): 698〜703, 1978」は,
食べ残しの弁当を検査して, いずれの検体からも10^5_10^8/gramオーダーのS.
aureusを検出したと報告しています。エンテロトキシンが検出された検体は,
タケノコ・エビ煮・昆布巻, ホウレン草の卵巻き, 米飯で, この時のエンテロトキシン量は0.003_0.054μg/gramであったと報告しています。「食中毒.
坂崎利一編, 中央法規出版, 1981」の〔7. ブドウ球菌食中毒 (寺山 武著)〕には,「典型的ブドウ球菌食中毒では,
通常原因食品から10^7/gram以上の黄色ブドウ球菌が認められている」と記載されています。この中に検出可能な毒素量のエンテロトキシン産生までの温度と時間という表が示されていて,
例えばGenigeorgisら(1969)の実験報告では, エンテロトキシンBが検出できたハム中には,
1 gram当たり4×10^6 cells以上存在していたと記載しています。Leeら (1975)
の実験報告では, エンテロトキシンAが検出できたマカロニ用の粉中には, 1 gram当たり7×10^6_3×10^8
cells存在していたと記載しています。「食品衛生検査指針 微生物編, 厚生省生活衛生局監修,
(社) 日本食品衛生協会, 1990年」の黄色ブドウ球菌 (尾上洋一, 品川邦汎著)
には,「ブドウ球菌食中毒の場合, 原因食品中には10^6_10^9個/gram (最小でも10^5個/gram)
の黄色ブドウ球菌が認められ, また食品中には0.01_1.2μg/gramのエンテロトキシン
(食中毒を起こす最少毒素量は1μg/成人)が検出される」と記述しています。「細菌・真菌検査,
第二版. 財団法人日本公衆衛生協会, 1981」のp. 274には, 「ブドウ球菌の原因食品中には,
それが菌の増殖後加熱されない限り, 10^6/gram以上の黄色ブドウ球菌が認められる」と記載されています。
以上の記載内容から考えられることは, 食中毒が発生して検査してみたら,
黄色ブドウ球菌数が1 gram当たり10^5以上の時が多いことと, エンテロトキシンは菌数が増えないと検出できるレベルまで到達しないという実験結果から,
「質問者がよく耳にする」ことに繋がっていると思います。
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