■ C. difficile 院内感染対策 | |
【質問】
はじめまして。回復期リハビリ病棟担当医の●●と申します。 持続CDトキシン陽性の偽膜性腸炎患者に対する感染対策をどこまで行う必要があるかとのことで質問させていただきます。 現在はClostridium difficile関連性腸炎が院内感染を生じる可能性は広くいわれていますが, 本院でも以前に院内感染が疑われるケースがありました。また, 回復期リハビリ病棟という特徴のある病棟のため, (1) 数ヶ月のスパンで患者が入院する (長期暴露の可能性), (2) 多くの患者が手すりなどの補助具を使用する (感染しやすい環境), (3) 個室附属のトイレがない, (4) 抵抗力の弱い患者も多い, (5) リハビリで共有する機材も多いなどのことから, C. difficile関連性腸炎が発症した際は個室隔離という対応をとっております。しかし, C. difficile関連性腸炎は再燃・再発も多く, なかにはCDトキシンが“持続陽性”を呈してしまう方もおり, その感染対策をどこまで行うかご相談させていただきました。例えば: ・CDトキシンは陽性だが, 症状がなく, 普通便がでている
のような方について, (1) 個室隔離の必要性などありますか???
看護師やスタッフへの指導もあわせて, ご意見をお願いいたします。 【回答】
(1) 無症候キャリアにおいては, そもそも“C. difficile検査を行わない”のが原則です。ただし, 回復期リハビリ病棟では高齢であったり, 手術などの感染予防目的で抗菌薬の使用歴があった等, 宿主側リスクの高い症例が多いことが考えられ, 無症状でC. difficileを消化管にもつ方は少なくないと思われます。従って, 消化管症状がなくても, 病棟の全症例において“標準予防策”をしっかり行うことが必要かと思います。 (2) C. difficileの検査は,“下痢を中心とした消化管症状が認められ, C. difficile感染症が疑われた場合”に行うのが基本です。“治療経過をみるための検査”は基本的に必要ありません。なぜかというと, 経験的にC. difficile感染症が回復した後も, 毒素検出陽性や培養陽性が続く症例の存在が判明しているからです。では, どの時点で個室隔離や接触感染予防策を解除するかが問題となると思いますが: ・基本的に下痢症状がとまった時 ・バンコマイシン内服治療 (7〜14日) が終了した時 (この時点には消化管症状は回復しているはずで, 回復傾向がない場合は, 下痢・腸炎の原因がC. difficile以外であるか, あるいは内科的治療が奏効せず外科手術が必要な重篤な症例かが疑われます) ・バンコマイシン治療終了3日後 (再燃を考慮する) 等がよく指標にされます。
C. difficile感染症の治療としてのプロバイオティクスは効果があるかという質問についてですが, Saccharomyces boulardiiという真菌がバンコマイシン治療との組み合わせで, 再発予防に有効という報告がありますが, 現在のところ C. difficile感染症の治療として明らかに有効なプロバイオティクスはないと考えられています。 C. difficile感染症の治療としては, 第一に誘因と考えられる抗菌薬の使用中止あるいは変更を行うことが大原則です。また, C. difficile感染症の医療関連感染予防や症例数の減少において, 病院全体としての“抗菌薬使用制限”が有効であったとの報告が多くあります。本症の感染管理において, 個室隔離や環境の消毒はもちろん重要ですが, 宿主 (患者) の腸内細菌叢 (フロラ) をなるべく撹乱しないようにすることが最も重要であることを最後に書き添えます。 (国立感染研・加藤 はる)
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