08/08/25, 09/02
Candidaの菌糸形成
【質問】
 よろしくお願いいたします。東京の大学で理学部に通っています●●と申します。2回生です。カンジダという菌の菌糸の形成を観察する実習をしました。使う培地について質問させてください。

 実習で, YPDという培地にfetal bovine serum (FBS) 10%を加えて菌をスプレッドし, 37℃で1週間好気培養しました。4日目くらいから菌糸がはっきりと見えてきました。調べてみたところ, 菌糸の形成を観察する培地にはSpider培地, Lee’s mediumに10%FBS添加, Medium199などがあるようです。質問は: 

・これらの培地はどのように使い分けているのでしょうか。

・Spider培地とMedium199には, 血清を入れなくても菌糸が形成されるのでしょうか。

・FBSを用いる場合と, fetal calf serum (FCS) を用いる場合があるようですが, どのような基準で選択するのでしょうか。

・FBSやFCSは10%濃度で添加されることが多いようですが, 5〜20%の範囲で使われているようでした。この濃度はどのように設定されたのでしょうか。菌種によって最適濃度が違う, あるいは濃いほど早く菌糸が出来たりするのでしょうか。

【回答】
 真菌には, 感染組織内では酵母形であり, 培養条件下では菌糸形と形態変換を行うものがあり, これらを“二形性真菌”と言います。そして, 深部真菌症の原因菌には二形性を示すものが多いのです。このことから, 菌糸形誘導のメカニズムを明らかにしようと世界中で研究が行われています。日和見感染菌のひとつで, 二形性を示すCandida albicansは感染組織内では酵母細胞, 菌糸, 仮性菌糸のすべての形態をとることが観察されており, 菌糸形成能を失った変異株は病原性がないことなどが報告されています。また, C. albicansでは血清またはN-アセチルグルコサミンにより顕著に菌糸形が誘導されます。

・これらの培地はどのように使い分けているのでしょうか。 
 Spider培地, Lee’s medium, Medium199などは, 二形性真菌が菌糸形へと誘導されやすい培地ですが, 必要に応じて血清が添加されることもあります。YPD培地は酵母を培養する際に一般に用いられる培地の一つであり, 菌糸形への誘導には血清が加えられます。

・Spider培地とMedium199には, 血清を入れなくても菌糸が形成されるのでしょうか。
 菌糸形への誘導因子は菌種によって異なるため, 一概には言えませんが, 血清を入れない場合においては, YPD培地と比較して菌糸が形成されやすいでしょう。

・FBSを用いる場合と, fetal calf serum (FCS) を用いる場合があるようですが, どのような基準で選択するのでしょうか。
 FBSとFCSは同じものを意味します。最近では“FBS”と称されることが多いようです。

・FBSやFCSは10%濃度で添加されることが多いようですが, 5_20%の範囲で使われているようでした。この濃度はどのように設定されたのでしょうか。菌種によって最適濃度が違う, あるいは濃いほど早く菌糸が出来たりするのでしょうか。
 上述の通り, 菌種や菌株によって誘導因子やその至適濃度が異なるため, 添加する血清濃度は5_20%と幅を持たせて表現することが多いためだと思われます。菌種によって至適濃度が異なる上に, 生育温度などの他の菌糸形誘導因子もありますので, 一概に血清濃度が高ければ高いほど菌糸形成が早く誘導されると言うことは難しいでしょう。

〔参考文献〕 
(1) 吉田 眞一・柳 雄介編: 戸田新細菌学 改訂32版, 南山堂, 2002. 

(テクノスルガ・ラボ 永塚 由佳)


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