07/11/06
■ CDチェックと分離の判定が乖離するClostridium difficile
【質問】
 クロストリジウム・ディフィシル (Clostridium difficile) のことについて教えてください。当病院は老人施設の付属病院である為, 特に注意を要する菌のひとつとして扱っています。クロストリジウムの依頼がある場合, CDチェックとアルコール処理した検体をCCMA培地で48時間培養をしています。ここで何時も困るのが, 「CDチェック陽性・培養陰性」, 「CDチェック陰性・培養陽性」と言うことが間々あることです。両方が陽性だと問題がないのですが, 特に前者の場合, ドクターから「培養が陰性なのだから問題ないんじゃないの???」と言われ困っています。でも下痢症状があり, CDチェックが陽性なのでクロストリジウムはいると思いますとしか言えません。寝たきりの方が多く, 判断の仕方で処置の方法が変わると思います。お風呂の入れ方や消毒方法も看護師の悩みの種となっていますが, どのようにしたら一番良いでしょうか???

【回答】
 Clostridium difficile感染症の細菌学的検査ですが, CDチェックD-1はC. difficileの毒素ではなく, グルタメート・デヒドロゲナーゼ (glutamate dehydrogenase) という酵素を検出するキットで, 感度も特異度もあまり良くない上に, 特に経済的でもありません。貴院でもCDチェックD-1によるグルタメート・デヒドロゲナーゼ検出から, 糞便検体中の毒素検出に切り替えることをお勧めします。本年 (2007年) の6月よりtoxin Aだけでなく, toxin Aとtoxin Bを同時に検出するキットの使用 (TOX A/B QUIK CHEK, ニッスイ) が認可されました。本キットも, 糞便検体が提出された同じ日に結果報告ができますので迅速性に優れています。しかし, 本キットによるtoxin Aおよびtoxin B検出も (CDチェックよりは良好ですが), 分離培養検査と比較しますと感度がやや悪いので, 現在貴院で行っている培養検査をお続けになることをお勧めします。

 “CDチェック陽性・培養陰性”は, CDチェックの偽陽性か, 培養の偽陰性のどちらかですが, どちらもありうると思います。ご指摘のように問題は培養の偽陰性ですが, よく認められるのは, バンコマイシンなどによる治療が始まってから検体採取される場合です。基本的には, 治療経過を見るための検査は不必要です。個室隔離の解除は, 消化管症状が回復したとき (下痢がとまったとき), バンコマイシン (あるいはメトロニダゾール) 内服終了時, あるいはバンコマイシン (あるいはメトロニダゾール) 内服終了から3日後などの時点で行われます。貴院でルールをお決めになるといいかと思います。個室隔離が解除されても, 標準予防策をしっかり行うことと, 腸内フローラの回復に2〜3ヶ月間必要であることを考えて, その間は再発や抗菌薬の使用に注意することが必要です。培養陰性の原因ですが, 水様便の場合は, かえって糞便検体が薄まってしまい, 培養がうまくいかないこともあります。内視鏡施行時の洗浄液が提出される場合も同じことが言えます。そのような場合には, 検体を軽く遠心し, 沈殿物をアルコール処理して培養すると検出できることがあります。また, どうしてもスワブ (綿棒) などで検体採取された場合は, クックトミート培地などで増菌し, 選択培地を使用する方法もあります。“CDチェック陰性・培養陽性”は, CDチェックの感度の問題かと存じます。

 CDチェックを, TOX A/B QUIK CHEKに切り替えても, 同じ様に結果が一致しないことはあると思います。基本的な検査と治療の流れを述べますと, TOX A/B QUIK CHEKによる毒素検出を行い, 陽性であればC. difficile関連下痢症/腸炎と診断します。陰性であればそのように報告しますが, 毒素検出は培養検査を比較すると感度が良くないことを主治医に伝えます。どちらにしても, 誘因となったと考えられる抗菌薬の使用を中止するか, 変更して様子を見ます。非常に症状が重篤な場合は, 検査結果を待たずにバンコマイシン (あるいはメトロニダゾール) 治療を開始します。培養を併用していれば, 翌日あるいは翌々日にそれらしきコロニーが認められた時点で検査結果を速報します。その時に症状の回復傾向がなければバンコマイシン (あるいはメトロニダゾール) を開始します。バンコマイシン (あるいはメトロニダゾール) 内服を開始したら, 途中で症状が回復しても7〜14日間は内服を続けます。培養検査の場合, toxin Aもtoxin Bも産生しない菌株も分離されうるので, 分離菌株の毒素産生能を検査する必要があるのは本当ですが, 臨床検査室ではなかなか時間や経費の問題でそこまで出来ないことが多いと思います。臨床症状とTOX A/B QUIK CHEKおよび分離培養の結果を総合的に考えて臨床診断を行うということになるかと思います。

 お風呂や消毒の問題は, 貴院での看護・介護体制について正確にはわからないので, 具体的にお答えできませんが, 下痢症状がある間は個室隔離かコホーティング (同じ状態にあるヒトを群別する) が基本で, 接触感染予防対策をしてください。手洗いは石けんと流水による手洗いが基本で, 手洗い後に速乾性アルコール製剤を使用してください。隔離解除後も, 排泄ケア時は使い捨ての手袋をするなどの標準予防策はしっかり続けてください。複数の症例 (特に重篤な合併症を伴ったり, 再発を繰り返したりする症例) の発症が続いたり, 感染症例が増加したりした場合は, 保健所か地方衛生研究所, あるいは国立感染症研究所までご相談ください。

参考HP [http://www.nih.go.jp/niid/bac2/C_difficile/

(国立感染研・加藤 はる)

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