07/05/07
■ セレウス菌への検査室の対応
【質問】
 ●●病院臨床検査科の■■と申します。“セレウス菌”への対応について教えて下さい。

 最近話題になっているセレウス菌ですが, 当院では同定することができず, 血液培養からセレウスを疑う菌が検出された場合は外注し, 同定しています。しかしその結果には1週間近くかかります。細菌担当者は「血液培養のような検体からセレウスを疑う菌が検出された場合に, 院内で同定できないことは問題では・・・・」と言うのです。しっかりと菌名を同定し, その菌に対する薬剤感受性結果を報告することが細菌検査の使命だと考えていますが, TSI, VP, カタラーゼの結果から「セレウスを疑う」という報告ではいけないでしょうか??? コンタミかもしれない??? 通常は病原性を示さない, 感受性のディスク法は参考値・・・このような菌に対して, どこまで対応することが妥当なのでしょうか??? 安価で, 迅速な同定方法を教えて下さい。

【回答】
 好気性の芽胞形成菌の多くは病原性をもたないとされておりますが, 例外はBacillus anthracisBacillus cereusです。検査室は, この菌種の区別と同定が必要となります。この菌種の区別は, 集落形態, 羊血液寒天培地での溶血性, 運動性試験で可能ですので成書を参照して下さい。ここではB. cereusについて記載します。

 質問者が言及するように, 臨床材料から検出されるBacillus 属は汚染によるものが多いと思われます。しかしB. cereusは (食中毒原因を除き) 外傷後の眼内炎患者の材料からは高率に検出され, 日和見感染の原因菌種として重要な菌種です。Bacillus 属が血液から検出されたら, 安易に汚染菌と判断するのではなく, 患者の基礎疾患 (免疫低下疾患など), 外傷後の患者, 新生児のへその緒からの血流感染, 特に外傷後の眼内炎から血流感染のケースが多い報告があります。そのため患者情報を入手する必要があると思います。

 質問者の言う, TSI, VP, カタラーゼの結果のみでは「B. cereusを疑う」の回答はできないと考えます。B. cereusを簡便に推定同定する方法は, NGKG培地 (日水製薬)での発育集落の観察で容易に推定同定が可能です。集落は周縁不規則で光沢のない白色集落を形成し, 集落周囲は濁った赤色を呈します。またNGKG培地はB. cereus以外の細菌の発育を強く抑制するのも特徴です。糖分解試験には“アンモニウム塩糖培地”を使用します。市販培地がありませんので自家調整の必要があります。同定キットではAPI 20E, VITEK Bacillus card を用いて48時間で同定が可能です。しかしこれらの推定または同定キットを使用する前に, 検出菌が好気性か通性嫌気性かを確認することが重要です。B. cereus groupは嫌気環境で発育可能ですが, B. subtilis group, B. circulans groupの多くは非発育です。

 薬剤感受性試験の方法はMueller-Hinton 培地を使用する微量液体希釈法でB. anthracisのブレイクポイントが設定 (CLSI M100-S17) されています。しかし他のBacillus属には設定はありません。B. anthracisはpenicillinに感性を示しますが, B. cereus はβ-ラクタマーゼを産生しpenicillin, ampicillin, cephalosporinに耐性を示します。clindamycin, erythromycin, chloramphenicol, vancomycin, aminoglycosideには感性を示します。これらの結果からも菌種推定が可能です。他の薬剤感受性試験方法としてはMueller-Hinton 寒天培地を使用した“E test” での報告もあります。

(琉球大学・仲宗根 勇)

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