■ 膣分泌物と羊水の細菌検査 | |
【質問】
毎回拝見して勉強させていただいております。私は国立病院で細菌検査を担当しております新人臨床検査技師です。当院の産科からの依頼で, 膣分泌物と羊水の培養を行っていますが, 自分のしている鏡検・培養作業・報告の仕方が本当に正しいのかと不安を抱いています。お忙しい中恐縮ですが, 以下の手順について, 直すべき点や加える点など是非教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。 (1) 膣分泌物
鏡検: 小さなグラム不定の桿菌が見える場合はBVスコアを出してみますが, 染色結果だけでは確信が持てないため, 同定キットまで持っていった方がよいかどうか迷います。時間がかかるので, 染色結果でガードネラ, モビルンカスの存在を言えるのが理想ですが・・・ 報告: ラクトバチルス, ビフィドバクテリウムがいれば“Normal Flora”と表記しています。いなければ表記しません。 (2) 羊水
鏡検: 羊水を1滴スライドグラスに滴下してグラム染色し, 鏡検しています。が, 陽性球菌に似た背景が多いので, もしわずかに細菌がいても見落としているかも知れません。幸い今までは増菌培地で検出されたことがないのですが, 臨床サイドは染色結果をみて帝王切開するか否かを決めるということなので, 染色が重要視されています。 以上です。長くなり, すみません。お返事お待ちしております。 【回答】
(1) 腟分泌物
“コロニーが同定に用いる量になかなか培養できないために嫌気性菌の同定が今ひとつ信用できない” Rap ID ANA _の使用書には,”#3 MacFarlandの基準液と同等の濃度に調整します。この濃度より薄いと誤った反応結果となります”と明記されています。キット類は使用書に沿った方法で実施してはじめて精度が保証されますので, 同定に使用する菌量が足りなければ実施すべきではないと思います。キットの値段も安くはありませんので, どうしても同定が必要な場合には, 一旦発育した菌のグラム染色性だけでも中間報告をした上で, 必要量の菌液が得られるまで培養した方がよいと思います。嫌気性菌の中には発育の遅い菌が多く, 同定に苦慮することはよくあります。菌量を得るひとつの方法として, 寒天培地全面に一度白金耳で菌を塗り広げたのちに, さらに培地を60度程度回転させながら, 縦, 横, 斜めに交叉させて何回も塗り広げます。このことにより塗り始めの場所だけでなく菌が培地全体に均等に発育しますので, 同じ培養時間でもより多くの菌量を得ることができます。この方法でもなかなか十分な量が得られないこともありますが, 試してみる価値はあると思います。しかし仮に使用書通りの菌量が得られたとしても, 判定が難しい菌株は存在します。同定キットにより得られた結果と, 集落形態, グラム染色による菌形態や染色性あるいは芽胞の有無などの情報と照らし合わせながら総合的に判断することが大切だと思います。 “BVスコアを出してみますが,染色結果だけでは確信がもてない” 確かにガードネレラの場合には, グラム不定で, なおかつ多形性を示すこともあるため, 単一の菌なのか, 複数菌が存在するのか分かり難いこともあります。確信がもてないということであれば, グラム染色にてガードネレラを疑う菌体が認められた検体については, ガードネレラ寒天培地(日本ビオメリュー)を追加して培養するという方法もあります。ガードネレラはヒト血液が含まれるこの培地上で溶血を示しますので, 鑑別が容易です。すべてに同定キットを使用すればより正確であるとは思いますが, 臨床的にはすべての検体において同定キットを使用する必要は無いと思います。モビルンカスは湾曲した特徴的な形態をしていますので, 検体が腟内容物であれば, ほぼグラム染色だけで推定可能であり, 培養同定は必ずしも必要ないのではないかと思われます。モビルンカスは非常に発育が遅く, 分離が困難なこともありますが, 発育すればCAMP反応を利用して鑑別することも可能かと思います。B群溶血レンサ球菌と同様に, モビルンカスとβ溶血毒をもつ黄色ブドウ球菌とを交叉させて培養することにより, 交叉部に溶血が認められます。また嫌気性血液寒天培地上で黒色または茶褐色の集落を形成するPrevotella属やPorphylomonas属は集落の着色が鑑別の目安になりますが, 48時間程度では着色が認められない菌株も多いため, 培養時間の延長が必要だと思います。またこれらの菌種は, 一部の例外はあるものの, 紫外線を照射することにより赤レンガ色の発色を示しますので, 鑑別の一助になると思います。 (2) 羊水
ご質問の“陽性球菌に似た背景”というものがよく分かりませんが, 染色過程での水洗が不足すると, 前染色液が残ってしまったり, 残存する媒染剤などと後染色液が反応して顆粒が出現することがあります。染色の次のステップに移る前の水洗を十分に行うことにより, きれいで見やすい標本になることもあると思います。このような現象は比較的塗抹の厚い部分で起こりやすいため, 一滴滴下するだけでなく, 薄く塗り広げた部分も同時に作製して比較してみてください。 産婦人科領域の検査は複雑で難しい分野だと思います。参考になる回答ができたかどうかはわかりませんが, 検査法については, 一度臨床の先生とも話し合ってみられたらいかがでしょうか??? 案外単純化できる部分もあるかもしれません。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭)
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