09/08/04
■ CLED培地とProteus属の遊走
【質問】
 質問なのですが, 「CLED培地では電解質が欠如しているためProteus属の遊走が抑制される」と培地の特徴のところに書いてあったのですが, 何故, 電解質がないとProteus属の遊走は抑制されるのですか??? 

 疑問の思ったのでメールさせていただきました。お忙しいところ申し訳ありませんが, よろしくお願いいたします。

【回答】
 固形培地上で, Proteus 属菌が swarming 現象を起こすことはよく知られています。この swarming 現象は日常の臨床細菌検査でしばしば厄介者扱いをされ, 何とかこの swarming 現象を阻止することは出来ないかと, これまでにも多数の検討がなされて来ています。質問者は, CLED 培地での培養以外に, どんな swarming 阻止の手法があるかご存知でしょうか。回答者が思い付くままに挙げてみるだけでも:

(1) 寒天濃度を上げる。通常の1.5%より高くする。
(2) 培地表面を充分に乾燥させる。
(3) アジ化ナトリウムを添加する。
(4) 鉄イオン濃度を上げる。
(5) ホウ酸を添加する。
(6) テルル酸カリウムを添加する。
(7) クロラールやモルヒネを添加する。
(8) バルビタールを添加する。
(9) アルコールを添加する。
(10) 胆汁酸塩を添加する。
(11) パラニトロフェニールグリセロールを添加する。

 等々, 実に多くの検討成績が示され, そして, これらの中のいくつかは培地に含有させたりして, 現在でも検査の現場で活用されています。これだけ多くの swarming 阻止手段があるということは, swarming の原因そのものが複雑で単純ではないことを示唆しています。

 実は, swarming を阻止するための方策として列記しなかったのですが, 上述した以外にも, 浸透圧との関連で検討された成績 (下記文献) が示されています。詳細は文献を読まれることをお勧めしますので省略しますが, 浸透圧は Proteus 属菌の swarming に極めて重要な因子のようです。要するに, Proteus 属菌の swarming には, ある一定の浸透圧下であることが重要で, その浸透圧の維持にある一定濃度の糖 (dulcitol や glucose で検討された成績があります) の添加や, 電解質 (食塩) の添加が必要であることが知られています。特に, 食塩については, 0.1%以上の濃度が必要で, 0.4〜1.5%程度が最も swarming 現象を促進させることが示されています。つまり, 電解質 (食塩の添加) は, swarming の発現に必要なんです。ということは, 逆に電解質 (食塩の添加) がない培地での swarming は起こらないのです。

 さて, では何故に電解質 (食塩の添加) が必要なのでしょうか??? 電解質 (食塩の添加) はswarming の発現に際してどんな役割を演じているのでしょうか??? 現象としての事実は確かに観察されているのですが, その本質については, 実はこれがまだよく判っていないのです。要するに, 質問「何故, 電解質がないと Proteus 属の遊走は抑制されるのですか???」に対する答えは, 回答者の不勉強かも知れませんが, 明確に示されていないのが実状だと思います。つまりは, 「よく判らない」と言うことなのです。

〔参考文献〕
Naykir P.G.D.: The effect of electrolytes or carbohydrates in a sodium chloride deficient medium on the formation of discrete colonies of Proteus and the influence of these substances on growth in liquid culture. J. Appl. Bacteiol. 27: 422〜431, 1964. 

(信州大学・川上 由行)


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