08/03/04
Clostridium difficile陽性患者の陰部洗浄ボトル
【質問】
 はじめまして。内科病棟で勤務している看護師の◆◆といいます。Clostridium difficile (CD) 陽性患者に使用する“陰部洗浄ボトル”について質問です。

 当病棟では, 使用後のボトルは次亜塩素系の溶液に浸水させていますが, 助手さんが行っているため, 濃度や時間が不明確です。それにもまして, 有芽胞菌に対してこの方法でよいのかも疑問です。

 前にいた病棟では, 薬剤に浸水する方法は中止し, ベッドパンウォッシャーで洗浄して十分乾燥させるという方法をとっていたのですが, ベッドパンウォッシャーの効果についてもよく分からず, どちらがよいのかと考えています。

 勉強不足だとは思いますが, ご助言・ご指導よろしくお願いします。

【回答】
 難しいご質問です。“陰部洗浄ボトル”が伝播経路となってClostridium difficile感染症のアウトブレイクが起きたと証明した事例の報告は (少なくとも私は) 知らないのですが, 排泄ケアが伝播経路となっていることが強く示唆される以上,“陰部洗浄ボトルの取り扱い”に関しては留意しなければならないことはご指摘のとおりです。従って,“絶対にこうしなければならない”という回答はできないのですが, 他の医療施設ではこんな工夫をしているということを紹介します。コスト, 設備, マンパワーの問題, 誰がどんな仕事を分担しているのかということは, 医療施設によって事情が異なると思いますので,“できるところから工夫していく”ということになるのかと思います。以下に, “工夫例”を示します。

C. difficile感染症例には, 専用の“陰部洗浄マイボトル”を使用することにし, 温湯の準備および使用後のボトルの (特に汚染されやすい蓋の部分の) 洗浄と消毒を, そうではない症例で使用しているものと分けて行う。

C. difficile感染症例では, “陰部洗浄ボトル”自体を使用せずに, 使い捨ての紙コップに随時温湯を入れて陰部の洗浄を行う。

・ベッドパンウォッシャーで洗浄する。ベッドパンウォッシャーは80℃程度で加温して洗浄するので, 温熱や洗剤がC. difficileの芽胞に直接有効というわけではないが, 物理的にC. difficileを含む排泄物が除去されることを期待する。

 C. difficileによるアウトブレイクが疑われている時と, そうでない時, あるいはハイリスク症例 (抗菌薬や抗がん薬を頻繁に使用している症例, 高齢者, 基礎疾患が重篤な症例) が多い病棟と, そうでない病棟で対応を区別するというのもアイデアのひとつかもしれません。

 芽胞に有効な消毒薬は, 他に安全で安価な消毒薬がないので, 次亜塩素酸ナトリウムがよく使用されます。0.5%濃度の次亜塩素酸ナトリウムを使用した場合, 10分以内でC. difficileの芽胞に有効であるという基礎的データを示した論文があります。同論文では, 0.1%の場合は30分間の暴露が必要とあります。医療施設で購入している次亜塩素酸ナトリウムは6%のものが多いと思いますが, 他の濃度の原液もありますので, 貴院で購入している次亜塩素酸ナトリウム原液の濃度をよく確認して, 消毒薬希釈調製早見表などを作製されるといいかと思います。

〔参考文献〕
Perez J, Springthorpe VS, Sattar SA: Activity of selected oxidizing microbicides against the spores of Clostridium difficile: relevance to environmental control. Am J Infect Control 33: 320〜325, 2005.

(国立感染研・加藤 はる)


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