07/10/11
■ “大腸菌群”の定義
【質問】
 大学を卒業後, 試験機関で食品衛生法等に基づく微生物の試験を担当しております。「大腸菌群」の定義についての質問です。

 『乳糖分解, 酸とガスを発生する芽胞非形成のグラム陰性桿菌』はすべて大腸菌群であると判断して差し支えないでしょうか。それとも“大腸菌群に含まれない”『乳糖分解, 酸とガスを発生する芽胞非形成のグラム陰性桿菌』が存在すると考えるべきでしょうか???

 と申しますのも, 当試験室では完全試験で酸とガスを産生するグラム陰性桿菌であっても, 確定試験E.M.B.培地上で定型コロニーを形成しない菌は大腸菌群の定義に当てはまらない (大腸菌群陰性) と解釈しているようなのです。特に魚肉練り製品の規格基準において, 試験法に確定試験でE.M.B.培地に定型コロニーの発育がない場合についての記述がないことが根拠のようです。

 「大腸菌群」が公衆衛生用語である以上, 試験法によってはそのような解釈も出来なくはないと思いますが, “確定試験の結果が完全試験に優先される”というのが納得できません (上司は「非定型コロニーを完全試験にすすめるのがおかしいのだから, その結果は無視しなければならない」とのスタンスです)。

 どの基準で定型コロニーを識別するのかという問題もさることながら (上司は「経験」と回答), そもそも乳糖を分解できる菌を定型的コロニーとみなすべきなのではないかとも思います。また, 経験上, 大腸菌群に属する菌がEMB培地上で「あきらかに定型的」とは言い難い色素摂取の弱いコロニーを形成する場合が少なからず存在すると認識しております。ですから私としては, 推定試験「陽性」の場合は, 確定試験で出現したコロニーから必ず疑わしいものをいくつか釣菌して完全試験を行い, その結果で大腸菌群の存在の有無を判断するのが原則であると考えてるのですが・・・。

 所外に相談できる人がおらず, 当試験室の解釈が正しいのかどうか判断もできないため, 質問させていただきます。よろしくお願いします。

【回答】
 食品衛生法の食品の規格基準 (C 食品一般の保存基準) に記載されている大腸菌群は「グラム陰性の無芽胞性の桿菌であって、乳糖を分解して、酸とガスを生ずるすべての好気性または通性嫌気性の菌をいう」と記載されています。大腸菌群試験法は, 推定試験, 確定試験, 完全試験と試験を進めるように記載されています。完全試験では, 定型的大腸菌群集落または2つ以上の非定型的集落を釣菌し, 乳糖ブイヨン (BTB不含の乳糖ブイヨンでガス産生のみ判定) での反応とグラム染色をして判定することになっています。

 魚肉ねり製品については, 平成5年3月17日 衛乳第54号の「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」の別紙1の食肉製品, 鯨肉製品及び魚肉ねり製品の試験法の第3試験法が示されています (第1 検体の採取、運搬及び試料の調製と第2試薬及び培地も参照してください)。大腸菌群試験法は, 3本の倍濃度BGLBへ試料10 mlずつ接種して, 35±1℃で48±3時間培養してガスの発生を認めないものは「大腸菌群陰性」とします。ガス発生を認めた場合は, 1白金耳をEMB培地に塗抹して, 35±1℃で24±2時間培養して, 大腸菌群の定型的集落を釣菌して, 乳糖ブイヨンでの反応 (BTB含有乳糖ブイヨンですが, ガス産生のみ判定) とグラム染色で大腸菌群の判定をします。この場合, 質問者が困っているのは, EMB培地での定型的集落の基準だと思います。回答者としては, 迷った場合は乳糖ブイヨン接種とグラム染色をして判定することを勧めます。質問者もお気づきだと思いますが, 食品衛生法に記載されている乳糖ブイヨンは2種類あります。回答者はこの矛盾点について,「臨床病理レビュー 特集 第136号 (平成18年10月)食中毒と食品微生物_食生活の安全性と衛生管理_の第2章 食品衛生 11.培地、試薬、染色(平成18年版 食品衛生小六法を中心に)、臨床病理刊行会」の中に記載しています。参照ください。

(日水製薬・小高 秀正)

【質問者からのお礼】
 丁寧な回答ありがとうございます。乳糖ブイヨン, グラム染色の結果で確定するべきあり, EMBにおけるコロニー性状のみで判定するべきではないと理解しました。改善に役立てたいと思います。


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