07/08/23
07/09/04
■ “衛星現象”について
【質問】
 初めまして。●●大学3年の■■と申します。“衛星現象”について数個分からないことがあったので質問させていただきます。

(1) 何故, 黄色ブドウ球菌の周りはV因子が増加するのか
(2) ナイセリアやラクトバチルスでも衛星現象が起こるが この2つもV因子が発育要求だからかのふたつです。お答えいただければ幸いです。

【回答】
 まず, あなたは“衛星現象”について, ブドウ球菌の周囲に発育するヘモフィルスのことを思い浮かべているのだと思います。“衛星現象”とは, ある微生物の周囲に, あたかも“衛星”のように発育しているすべての現象を指しています。ですから, 先に述べた「ブドウ球菌の周囲に発育するヘモフィルス」はその中のほんの一例に過ぎないのです。この一例に限定してしまえば, 答えは簡単です。

(1) 黄色ブドウ球菌は, 自分自身が消費しきれない程, つまり過剰にV因子を産生するのです。過剰なV因子が菌体外に放出されて, 黄色ブドウ球菌の周囲にV因子の豊富な環境が形成されるのです。

(2) ナイセリアやラクトバチルスでも, 黄色ブドウ球菌の場合と同様に, 自分自身が消費しきれない程, つまり過剰なV因子産生株があり, その結果として過剰なV因子が菌体外に放出されて周囲にV因子の豊富な環境が形成されるのです。

 冒頭で述べましたように,“衛星現象”はヘモフィルス以外のいろいろな菌種で観察されます。その場合はV因子のみではありません。V因子の本体はNADであることが解明されていますが,“衛星現象”を示す現象はその他の多くの菌種間で観察され, その本体は未だ判明していない方が圧倒的に多いのです。遺伝学的にはその存在が確認されていながら, 培養には成功していない菌種は数えきれない程知られています。さらに, 培養されていないことから, その存在さえも知られていない菌種が沢山あることは想像に難くないのです。これらの細菌も偶然の“衛星現象”が糸口となって発見され, 新たな培養法や新しい培地の開発へと進展していくのでしょう。

 要するに, 過剰なV因子を産生するブドウ球菌の周囲に発育するヘモフィルスは“衛星現象”のほんの一例なのです。大多数の“衛星現象”は, その現象は知られていますが“衛星現象”が引き起こされている原因さえ解明されていない場合がほとんどなのです。あなたも“衛星現象”から未知の菌種の探索に挑戦してみませんか。

(信州大学・川上 由行)


【質問者からのお礼】
 衛星現象についてお答えいただき, 有難う御座いました。


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