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【質問】
お世話になります。私は医療機器メーカーに勤務する者ですが, 弊社にて件名の微生物がMEM培地より確認されました。この培地は入手後,
弊社にて一部調整を行うため, その作業中にコンタミした可能性も考えられます。弊社での培地調整は,
無塵衣に着替えてクラス1,000環境下に設置した安全キャビネット内で作業を行っています。施設内には水道等の設備は設置してありません。
再発防止策を講じるためにExiguobacteriumに関して調べてみたのですが,
生存の由来に関する記載を見つけることが出来ませんでした。この菌はどの様な環境に生息し,
汚染の経路はどのようなケースが考えられるのでしょうか??? また, この菌の汚染を防ぐ為にはどのような事項に注意を払えば宜しいでしょうか???
お忙しい中をお手を煩わせて恐縮ですが, お教え頂けます様, 宜しくお願い致します。
【回答】
随分と奇妙な細菌に出会ったものですね。“Exiguobacterium”は様々な過酷な環境下で生存している細菌として特徴付けられる菌種です。シベリアの2〜300万年前の永久凍土,
南極の氷堆石, インド・ヒマラアの氷河などの冷たい環境 (psychrophilic), 逆にイエローストーンの温泉から分離された菌株もあります。またtype
strainのなかにはスキムミルクから分離されたものもあります。従って, かなり広範囲の環境、土壌、氷、温泉、海水などに拡がって分布しているものと考えられます。グラム陽性の桿菌で,
カタラーゼ陽性, 芽胞はなく, 運動性があり, 最も特徴的なのは生育温度で, 氷点下の−2.5
℃から50 ℃でも発育します。桿菌の長さは1〜2μm程度とされていますから, ブドウ球菌よりは少し大きい。このように,
過酷な環境でも極めて長い年月生存できるという特性から, “天体生物学”の領域では大変興味をもたれています。
汚染経路は様々考えられますので確定できませんが, 汚染の防止は通常の細菌
(ブドウ球菌) と比べ特に特殊な要素は考えられません。ただ, 高い温度, 低い温度にも耐えるという点には注意が必要かもしません。
〔参考文献〕
(1) Rodrigues DF, Goris J, Vishnivetskaya T, Gilichinsky D, Thomashow
MF, Tiedje JM: Characterization of Exiguobacterium isolates from
the Siberian permafrost. Description of Exiguobacterium sibiricum
sp. nov. Extremophiles 10 (4): 285〜294, .2006.
(2) Chaturvedi P, Prabahar V, Manorama R, Pindi PK, Bhadra B, Begum
Z, Shivaji S.: Exiguobacterium soli sp. nov., a psychrophilic bacterium
from the McMurdo Dry Valleys, Antarctica. Int J Syst Evol Microbiol. 58(Pt
10): 2447〜2453, 2008.
(3) Chaturvedi P, Shivaji S.: Exiguobacterium indicum sp. nov.,
a psychrophilic bacterium from the Hamta glacier of the Himalayan mountain
ranges of India. Int J Syst Evol Microbiol. 56(Pt 12): 2765〜2770, 2006.
(4) Kim IG, Lee MH, Jung SY, Song JJ, Oh TK, Yoon JH.: Exiguobacterium
aestuarii sp. nov. and Exiguobacterium marinum sp. nov., isolated
from a tidal flat of the Yellow Sea in Korea. Int J Syst Evol Microbiol.
55(Pt 2): 885〜889, 2005.
[http://genome.jgi-psf.org/draft_microbes/exi_a/exi_a.home.html]
[http://genome.jgi-psf.org/finished_microbes/exigu/exigu.home.html]
【質問者からのお礼】
お世話に成ります。詳細なご説明を頂きありがとう御座います。この菌は弊社での同定では分からず,
外部研究機関に同定を依頼して判明した結果でした。製造工程の前段階で確認された菌であることから,
この先の対応方法を考えなくてはならず, 暫くこの問題を引きずりそうです。今後とも宜しくお願い致します。
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