07/01/15
■ Fプラスミドと細菌の性
【質問】
 ■■と言います。乳酸菌に興味をもっています。 

 いつもここでの質問で勉強させていただいております。質問ですが, 細菌には染色体の他に“プラスミド”という遺伝子を持っていますが, 「Fプラスミド」は性決定因子としての機能があると教科書で勉強しました。この性決定因子ですが, そもそも細菌には「性」という概念があるのでしょうか??? ヒトでいう男性, 女性のような差があるのでしょうか??? よろしくお願いします。

【回答】
 乳酸菌に興味をお持ちのようですが, 質問内容は乳酸菌と切り離しても宜しい内容かと思います。Fプラスミドは確かに性決定因子です。細菌に「性」という概念が存在するのかということですが, そもそも「性」とは一体どのように定義されるのでしょうか。ヒトでの男性や女性, 動物における雄と雌, また植物では一般的な雄花と雌花の例がありますが, 同じ植物でも公孫樹 (いちょう) のように雌雄別個体のもの, 等々いろいろありますね。では,「性」とは一体何でしょうか。生物学的には, 子孫を残す (自身の遺伝子を未来に託す) に際して, 雄が自身の DNA を雌に注入するという手法が一般的ですね。バクテリアもその例外ではないのです。実は, 大腸菌にも雌雄の別があって有性生殖を行うことが1946年に Lederberg, J. によって見いだされ, 後になってこの業績でノーベル賞を受賞されています。この大発見が, 遺伝学の飛躍的な進歩に大いに貢献したのです。エンドウ豆からスタートした遺伝学が, ショウジョウバエ, アカパンカビを経て, 世代時間の短い大腸菌でも研究出来るようになったのです。この雌雄を決めているのが小さな DNA 分子「Fプラスミド」です。通常は細胞質に存在し,「Fプラスミド」保有株が雄, 非保有株が雌です。「Fプラスミド」を保有する雄は, F繊毛をもち, 一方の雌は1本もこの繊毛がありません。雄のF繊毛は「Fプラスミド」が作り出すもので, 雌を抱え込みます。これを接合 (conjugation) と呼び, 雌の細胞内に DNA を注入します。つまり遺伝子の交換が行われるのです。「Fプラスミド」は輪ゴムのようなリング状で, 普通は細胞質中に存在しているのですが, 時に染色体DNAに組み込まれてしまうことがあり, そのようになった株を Hfr (High frequency of recombination) 株と呼び, 極めて効率よく遺伝子の交換を行うのです。つまり, 遺伝の実験にはとても都合がいいのです。いずれにしても, 細菌の有性生殖の場合も, 高等生物とまったく同様に, 雄が DNA を雌の体内に放出するように出来ているのです。生物界には多くの性を持つ生物も知られています。一般的には「雄」「雌」の2種類の性ですが, なんとある種の粘菌では13種類もの性を持っていることが知られています。また, 繊毛虫では, それ以上に多い異なる性をもつ生物も知られているのです。どんな生物も, 原則として異なる性でなければ遺伝子の交換が出来ないのですが, 13種類, またはそれ以上もの性がある生物は, 考えただけでも羨ましいですね。それだけ子孫を残す術をたくさん持って, 種の絶滅を防いでいるのでしょう。要するに, 細菌にも「性(雄雌の別)」が存在し, 有性生殖が行われているのです。雑種強勢の原則に則って, 異なる「性」同士で DNA の交換を行いながら進化して行く多くの生物が主流なのですが,「性」を捨ててクローンで生き残る道を選択して進化してきたのがウイルスなのです。なんとなく「性の概念」が見えてきたでしょうか。とにかく, “「性」とは???”という命題は難しいですね。

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 わかりやすい回答をありがとうございます。学生の時は特に気にしなかったことですが, 復習がてら教科書を読み直したらとても気になった項目でした。ありがとうございました。


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