07/02/02
■ “偽膜性腸炎”の生検病理診断
【質問】
 お忙しいところすいません。ホームページを見させていただき, 自分も質問させていただきたく思いメールしました。

 症例は83歳の男性で, 誤嚥性肺炎にて入院され胃ロウを造設された方です。2ヶ月前より下痢が続き, 入院中の下痢ということで“CDトキシンの検査”を出したのですが「陰性」で, CFを施行しても“偽膜性腸炎としての偽膜形成”は見受けられませんでした。生検にて, 病理より偽膜性腸炎像として“立ち枯れ所見”あり, 偽膜性腸炎として矛盾はないということでした・・・2ヶ月以上続く下痢で, マクロ所見で偽膜形成がなく, 病理にて診断がつくということもあってよいのでしょうか??? もし宜しかったらお答えいただいて宜しいでしょうか。

【回答】
 そもそも“立ち枯れ所見”が何か存じませんでしたので, いくつか問い合わせましたところ,「“立ち枯れ所見”とは, 一般病理医に広く流布した言葉ではない」あるいは「“立ち枯れ所見”とは, あまり聞き慣れない用語であるが,“腸管の腺上皮の萎縮性の脱落前の変化”または“腺上皮の萎縮”をいうことがある」ということで, 少なくとも特定の疾患に特異的な所見ではないと思われました。ご質問の“立ち枯れ所見”を非特異的な炎症所見として話を進めますと, (マクロ所見でもミクロ所見でも) 偽膜形成が認められなかったのであれば, 偽膜性大腸炎とは診断できないと考えられます。しかしながらClostridium difficile関連腸炎であっても, 非特異的な炎症のみで偽膜形成が認められない症例は少なくありません。本症例は, 糞便検体中のtoxin Aが陰性であったとのことですが, 現在利用できるtoxin A検出キットの感度があまり良くないこと, toxin A陰性toxin B陽性菌株による感染はtoxin A検出検査によっては診断できないことから, 本症例がC. difficile関連腸炎/下痢症であった可能性は否定できないと考えます。ただし, 示されたデータからは, C. difficile関連腸炎/下痢症であるということを積極的に肯定することもできません。胃ろうを造設された症例ではC. difficile感染症以外の原因によっても下痢を認められることは少なくないと思いますが, 下痢症状があれば医療スタッフの手指を含めた環境も汚染されやすいので、一度C. difficile培養検査を行ってみてはいかがでしょうか。

 病理学的なことには触れていませんが, C. difficile関連腸炎/下痢症の細菌学的検査については以下のHPも参照ください。

http://www.nih.go.jp/niid/bac2/C_difficile/

(国立感染研・加藤 はる)

戻る