10/07/12
■グラム陽性菌のプロトプラスト
【質問】
 微生物学を学んでいる学生です。どうしてもわからない問題があるので質問させていただきました。

タンパク合成および細胞分裂を止めるような抗生物質 (たとえばクロラムフェニコール) の存在下で, グラム陽性菌をペニシリン処理したら, プロトプラストはできるのでしょうか??? ご指導, よろしくお願いいたします。

【回答】
 回答する前に, あなたが何を知りたいのかが判りません。

(1) グラム陽性菌は具体的にどんな菌種なのでしょうか???
(2) そのグラム陽性菌のプロトプラストを作りたいのでしょうか??? 作ることが目的なのでしょうか???
(3) 作った後, そのプロトプラストを何かの実験に使用するのが目的なのでしょうか???
(4) なぜ, クロラムフェニコールの存在下でなければならないのでしょうか???
(5) クロラムフェニコールの存在下で作ることがどんな意味があるのでしょうか???
(6) そもそも, 安定したプロトプラストを作ることは容易ではありませんし, その得られたプロトプラストをそのままで継代維持することも容易ではありません。なにしろ, 浸透圧に極めてデリケートな細胞なのですから。

 単純にあなたの質問に答えるならば, クロラムフェニコール存在下 (どのくらいの濃度なのか判りませんが) では, グラム陽性菌は蛋白合成が抑制されて分裂が停止されます。分裂が抑制されている状態では, 細胞壁の合成は起こりませんからペニシリン剤は作用しません。ペニシリン剤が作用して, 細胞壁合成が阻害されるのは“分裂状態”にあることが前提になります。ですから, 細胞壁の合成を阻害して細胞壁を欠損させたグラム陽性菌細胞を得ることが目的でしたら, 分裂状態にある菌細胞に作用させなければダメです。なのに,《たとえばクロラムフェニコール)の存在下で,グラム陽性菌をペニシリン処理したら》という質問の意図するところが判らないのです。それから, もしプロトプラスト化したグラム陽性菌を得ることが目的でしたら, スフェロプラストではいけないのでしょうか??? どうしてもプロトプラストなのでしょうか??? とにかく, ペニシリン処理を施してプロトプラスト化させるのでしたら, 活発な細胞分裂状態にある細胞を用いなければだめです。しかも, 濃度が重要です。細胞分裂状態にない細胞は, ペニシリン剤などのβラクタム剤にはまったく反応しないのですから。ですから, いろぃろな遺伝学的な実験に, ペニシリンスクリーニングという手法が存在するのです。簡単に言えば, ペニシリンスクリーニングは, 細胞分裂状態にない細胞は残して, それ以外の細胞を死滅させる時に用いる手法です。

 あなたの質問の回答になっているのか不安ですが, この回答からあなたの知りたい内容を汲み取ってください。

(信州大学・川上 由行) 

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