07/04/25
■ グラム染色で生菌/死菌が判別できる???
【質問】
 突然のメールで失礼いたします。私は, ●●大学に在籍しております■■と申します。現在, 所属しております研究室で乳酸菌の研究を行っております。“グラム染色”のことで質問があります。

 先日, 乳酸菌のアシドフィラス菌をグラム染色しました。上手く陽性菌として染まったのですが, 中には赤く染まったものが少しありました。使用した菌は純培養菌で新鮮培養のものです。研究室の教授は, 菌の細胞壁が弱っているものがいて, それが染まったと言いました。また, この赤く染まった菌は死菌ではないかと言いました。私も細胞壁が弱っていたためだと思いますが, この結果から, 赤く染まった菌は“死菌”と言えるのでしょうか??? グラム染色での生菌/死菌の判別はできるのでしょうか??? ご多忙中お手数ですが, お返事をお願いいたします。

【回答】
 厳密に言えば, グラム染色から直接, 生菌と死菌を鑑別することはできません。理由は, グラム染色は細胞壁の物性を利用した染色法であり, 細菌細胞の生死, vitalityあるいは viabilityを指標とする (利用した) 染色法ではないからです。下の写真は, ブドウ球菌と大腸菌をそれぞれアルコール処理, 高圧滅菌処理したものをグラム染色した顕微鏡像です。ブドウ球菌は一様にグラム陽性に, 大腸菌も一様にグラム陰性に染色されています。詳しく観察すると, それぞれの処理で異なる特徴的な像が観察できますが, ひとつひとつの細菌細胞を取り上げて, これは死菌, これは生菌と判断できるようなものではありません。

 この機会に是非, “細菌の死”について考えください。人間でもその死を定義するのは非常に難しい問題です・・・脳死はヒトの死か??? 細菌細胞についても, これまでは単に, 培地に植えても菌集落を作らないのが死菌と認識されてきましたが, 現在ではヒトと同様, 菌集落を作らなくなるまでにいくつかの段階があるとされています。代謝活性が温存されているか否か、細胞膜の選択的な透過性と構造が温存されているか否か等々。まず, 下記の文献を参照してみてください。

〔参考文献〕
Nebe-von-Caron G, Badley RA: Viability assessment of bacteria in mixed populations using flow cytometry. J. Microsc. Oxford 179: 55〜66, 1995.
 

(ブドウ球菌の新鮮培養) 

(大腸菌の新鮮培養)

(アルコール処理したブドウ球菌) 

(アルコール処理した大腸菌)

(高圧滅菌処理したブドウ球菌) 

(高圧滅菌処理した大腸菌)

(琉球大学・山根 誠久)
【質問者からのお礼】
 早速のお返事, ありがとうございました。写真も添付して下さり, 大変勉強になりました。良い機会なので, 細菌細胞の死について考えてみようと思います。お教え下さった文献を調べ, 考えていこうと思います。ご多忙中, わかりやすいお返事を下さり, 本当にありがとうございました。

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