09/03/28
■ 針刺し事故でのHIV院内検査
【質問】
 ●●県にあります◆◆病院に勤務する臨床検査技師で■■と申します。いつもホームページを拝見させていただいております。HIVの検査のことで質問させて下さい。

 当院では針刺し事故が起きた場合, 院内でHIVの検査を実施しております。2種類のHIV検査を採用しておりまして, ひとつは簡易キット。こちらは15分程度で結果が出るので主にこちらを主流にしております。もう一つは, 測定機器 (CLEIA法) を使用した方法で, 検査結果が出るまでに40分かかり, 値がCOI (cutoff index) であり, 補助的に使用しております。ただ, 以前から世間でも言われている通り, 簡易キットの疑陽性率の高さで悩んでおります。質問は:

(1) 疑陽性の高い簡易キットだが主流として使っていいのか???

(2) 簡易キットのみで陽性になった場合, 予防内服を始めた方がいいのか??? 40分かかる機器の測定結果を待った方がいいのか???

 CLEIA法等を利用した検査は逆に“疑陰性”があるという噂も耳にしたことがあります。そして当院ではHIV用の内服薬を常備しておらず, 近隣の大病院を頼らなければなりません。このような状況の場合, 院内検査の位置付けをどのように考えたらいいのでしょうか??? お忙しいとは思いますが, 是非ともご教授下さい。

【回答】
 大変難しい質問です。実は回答者の関連病院でも同じことが発生しました。看護師さんの針刺しがあり, イムノクロマトグラフィー法で「陽性」, その他のHIV検査は外注検査になるので, その病院の医師は直ちに抗HIV薬の予防内服を開始しました。外注検査の結果報告には日数がかかるので, 回答者の施設に相談があり, 血液検体をいただいて検査したところ, TaqMan PCR「陰性」, 抗体確認のEIA法も「陰性」で, 結局, イムノクロマトグラフィー法での偽陽性と判定され, 看護師さんへの予防投与は直ちに中止となりました。その看護師さんは喜びで泣き出されたそうです。

 簡易なイムノクロマトグラフィー法では偽陽性が1.17%の頻度 (100回試験すると1〜2件が偽陽性) で発生すると報告されています。抗体測定系でこの偽陽性率は異常なまでに高い (通常はその1/10の0.1%台) と考えます。針刺しの方にいらぬ心配をさせない, 不要な抗HIV薬を投与しないという意味からも, その医療施設で最も信用できる検査方法 (質問者の施設ならCLEIA法) の結果で判断すべきだと考えます。さらにもし可能なら, 針刺しが起こった場合に, 緊急にPCR法を実施してくれる施設 (近隣の基幹医療施設) を地域毎に確保することも一策だと思います。

(琉球大学・山根 誠久)


戻る