■ 変形菌の遺伝子同定 | |
【質問】
いつも勉強させていただいております。私は大学の研究室にて研究補助をしております。細菌の分類・同定を行っておりますが, この度「変形菌」ではないかと推測される検体の同定依頼がありました。 検体は, 木材チップに発生した黄色い粉状の塊で, 顕微鏡下では直径1μmほどの球状の細胞 (???) が密集しているように見えました。当方では, 真核微生物の同定を行った経験がなく, 形態からの分類することが困難であり, また検体は一部を採取したものであったため, 遺伝子から同定しようと思いました。DNAはISOPLANT (ニッポンジーン) というキットで抽出しました。18S rRNA遺伝子 (univF-15, univR-1765) およびITS1領域をそれぞれ増幅するプライマーを用いてPCRを行いましたが, PCR産物を得ることができませんでした。質問は: (1) 真核微生物を同定する時 (特に変形菌) は, 何か決まった手法があるのでしょうか???
ご指導よろしくお願いいたします。 【回答】
(1)「木材チップに発生した黄色い粉状の塊」は本当に真菌か否か??? 形態の観察や培養によって, 真菌であることを確認してください。 (2) DNAの抽出がうまく行われたか???
(3) PCR反応がうまくいっているか???
(岐阜大学・大楠 清文)
DNAの濃度は吸光度にて測定し PCR反応に用いる鋳型濃度も適切であったことを確認しました。併せて,
PCR反応時には真菌のコントロールとしてCoprinus cinereus NBRC 30628のDNAを用い,
同条件にて18S rRNA遺伝子が良好に増幅されることを確認しました。しかしながら,
検体のPCR増幅は得られませんでした。その後, 子実体と見られる検体の構造を詳細に観察した結果,
モジホコリ目(physarales)モジホコリ科(physaraceae)のキフシススホコリ(Fuligo
septica f. flava)であることが分かりました。変形菌は現在, 真核生物ドメインのアメーポゾア界に分類されており,
真菌(オピスコンタ界)とは離れた系統群として扱われているそうです。分子生物学的な研究は一部の種でしか行われておらず,
変形菌に広く有効な実験手法が未開発ということでしたので, 今回の試料を基にPCRのさらなる検討をやってみようと思います。丁寧な回答とご指導ありがとうございました。
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