07/08/27
07/08/28
■ 保存菌株のコロニー形状が変わった
【質問】
 初めてご連絡させていただきます。●●の■■と申します。研究所にて微生物試験を担当しております。

● 状 況
 工場からの分離菌 (分離されたのは2002年) を保存効力試験に使用しています。先日, 冷凍 (−80℃) 保存している分離菌を起こしたところ, 普段とは異なるコロニーが全体の7割程度に見られました。

通常のコロニー: クリーム色・丸型・粘性が高い
異なるコロニー: やや透明がかったクリーム色・不定形・粘性は低い

 それぞれの菌をSCDLP培地にてストリークしたところ, それぞれにおいて上記形状の均一なコロニーが出現しました。コンタミではないかということで同定試験を行いましたが, 同一菌種 (Klebsiella oxytoca) であると言う結果に至りました。

● 同定方法
・グラム染色 (B&Mワコー)
・劉氏法
・オキシダーゼテスト, インドールテスト
・BBL CRYSTAL E/NF
 PCRでの同定は外部委託となる為, まだ実施しておりません。

● 質問
 同じ菌種であっても, コロニー形状が異なることは通常起こりえるでしょうか??? (同定方法が失敗しているのか??? 突然変異でコロニー形状が変わってしまったのか???)

お忙しいところ申し訳ありませんが, ご教授のほど、宜しくお願い致します。

【回答】
 今回の質問の内容は,「2002年の分離時にはコロニー形状は単一であったにも拘わらず, −80℃での冷凍保存後において形状の異なるコロニーが検出された」として回答させていただきます。

 同じ菌種であっても, コロニー形状が異なることは決して珍しくありません。腸内細菌科 (Enterobacteriaceae科) に属する細菌や腸内細菌科以外の多くの細菌では, “S-R変異”というコロニー変異を起こすことが知られています。S-R変異とは, 円形, 平滑, 均等, 湿潤性のS (smooth) 型のコロニーから, 不規則性, 粗面, 不均質のR (rough) 型のコロニーに変わることを意味します。また, 最初は粘性の高いM (mucoid) 型コロニーを形成していた菌株が, 粘性物質を形成しなくなり, N型菌に変わる“M-N変異”と呼ばれる変異を起こすこともあります。これらの現象は, 培養条件 (培地組成, 培養温度, 培養時間, 継代培養の回数など, 菌にストレスを与える可能性がある要素), または長期保存などと強い関係があります。従って, −80℃の冷凍保存から起こした菌株が, 最初数回で異なるコロニーを形成することは十分考えられます。

 なお, 今回実施された同定の方法については, 予め菌株が腸内細菌科に属することが判っている場合には問題ないと考えます。各項目の結果について, それぞれのコロニーの反応が同一であるかどうかの確認が最も重要です (その意味では, 過去の同定試験の結果とも比較できるように記録の保存が求められます)。

(テクノスルガ・ラボ・立里 臨)


【質問者からのお礼】
 質問に対する詳細な回答をお寄せいただき, 本当にありがとうございました。質問を送付した後, 保存効力試験にて2つの菌を併用し, 試験結果への影響を調査していました。ちょうど今日, その結果をまとめ上司に報告すべく報告書を作成していたところでした。おかげさまで, 充実した報告書を提出できそうです。重ねて御礼申し上げます。


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