08/04/09
■ 百日咳の血清抗体診断
【質問】
 質問させていただきます。

 慢性咳漱 (2か月以上) の27歳の患者さんに百日咳の抗体 (凝集素) 検査をしてみました。過去にワクチンを受けた記憶はない (母子手帳で調べてもらっています) とのこと。当時は“3種混合ワクチン”は任意接種だったようです。検査結果はワクチン株160倍, 流行株10倍でした。いろいろと調べてみましたが, 「1回の検査では判断せずにペア血清で判断する」と記載されていました。ワクチン株, 流行株での抗体をどのように判断したらよいのか, またペア血清の解釈 (ワクチン株抗体価が下がっていて, 流行株が変化なかったら, ワクチン株による感染としてよいのか???) などについて教えていただければ幸いです。

【回答】
 百日咳の抗体検査としては細菌凝集抗体価がよく用いられます。使用されている凝集原は東浜株 (血清型1・2) と山口株 (血清型1・3) の2種類で, 山口株は流行株です。東浜株は従来ワクチン株とされましたが, 1981年秋からは死菌ワクチンに代わって沈降精製百日咳ワクチンがジフテリア, 破傷風との混合ワクチン (DPTワクチン) として用いられているため, ワクチン接種によって凝集抗体価が上昇するとは限りません。沈降精製百日咳ワクチンは百日咳毒素 (PT) をホルマリンでトキソイド化した百日咳トキソイド (PTd) および線維状赤血球凝集素 (FHA) を主抗原とするもので, 凝集原の含有量は製品により異なるためです。従って, 1981年以降のワクチン接種効果を確認するには抗PT抗体または抗FHA抗体が用いられます (コマーシャルラボでも受託しています)。

 WHOは百日咳の診断基準として, 21日以上の痙咳発作があり, かつ(1) 百日咳菌の分離, (2) 抗PT抗体 (IgG) または抗FHA抗体 (IgGまたはIgA) の有意の上昇, (3) 確定百日咳患者との家庭内接触の条件のうち1つ以上を認めるものを示しました。一般に抗体価の判断にはペア血清で抗体の変動を評価することが勧められます。急性期とその2週間以降とで抗体価の上昇を判断するもので, 質問の症例のように症状が2ケ月も持続している状態では抗体価が既に上昇しきっていて使えないと思います。また, 急性期にワンポイントの抗体価で百日咳と診断できる基準も, 凝集抗体価, 抗PT抗体, 抗FHA抗体ともに明確なものはありません。凝集抗体価については, 凝集原を含むワクチン接種の影響があっても320倍以上, 凝集原を含むワクチン接種の影響がなければ40倍以上という基準も一部で示されていて参考にはなります。いずれにしても臨床像と抗体価をあわせて総合的な判断が必要です。

(虎の門病院・米山 彰子)


戻る