08/08/30
■ 易感染患者への“N95マスク”
【質問】
 当院は, 血液疾患の専門病院で, 抗がん剤による治療後に白血球が1,000個/μl以下の易感染状態となる患者さんが多く見られます。これまでは, 感染予防のために“サージカル・マスク”を着用するなどしてきましたが, 最近, ある医師が, こうした易感染状態の患者には“N95マスクを着用させなさい”と指示を出すようになりました。そこまでする必要はあるのでしょうか???

 N95は, あくまで結核や麻疹のような空気感染から主に医療者が身を守るために着用するためで, 易感染状態の患者にも必要なのでしょうか??? 文献にもそんなものは見当たりませんし・・・スタッフの中でも疑問に思っている者は多いのですが, 医師から指示されたら, 確固たるエビデンスを示さない限り, やり込められるだけと思います (ただ, この医師, フィットテストの必要性なども把握していないのは確かなようです)。もし“N95マスク”が大した意味のないものなのであれば, そのエビデンスを教えていただきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

【回答】
 血液疾患の治療のうち, 造血細胞移植や好中球減少が高度で長期間に及ぶ化学療法の場合は, 経気道感染の予防法としてHEPA (high efficiency particulate air) フィルターまたはLAF (laminar air flow) の装備された病室を用いることが勧められています。それ以外でも, 近くの病室が工事中の場合など, アスペルギルス感染症を警戒する場合は用いることがあります。その上で, 入室するスタッフはマスク (N95でなくサージカル・マスクなど)を装着したり, 呼吸器感染症状がある場合は入室を避けるなどの飛沫感染予防策をとります。

 「血液疾患の専門病院」ということですのでLAFなどのある病室なら, 患者さん側のマスクは不要です。N95マスクは微生物を含む外気から, マスクを装着する医療者を守るために用います。血液疾患患者さんにN95マスク装着を指示された先生は, 血液疾患患者 (LAFが使えない場合???) の感染予防にも同様に使えるのではないかという発想なのでしょうか・・・しかしながら, N95マスクがその効果を発揮するには, 顔面とマスクが密着して空気がサイドから漏れないことが重要です (これはエビデンス云々以前の周知のことです)。長時間装着していると息苦しくなりますので, 患者さんが日常的にN95マスクを付けて生活するのは現実的ではありません。たとえN95マスクを装着させていても, マスクの周辺から空気を吸うことになるので, 結局その効果はサージカル・マスク並みになる理屈です。普通の病室で使用しても, LAFなどの代わりにはなりませんし, コスト的にも無駄です。

(虎の門病院・米山 彰子)

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