07/02/25
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■ 実験動物からの赤痢菌の検出
【質問】
 初めまして。私は派遣会社に在籍する獣医師です。

 今度の派遣先で, 実験動物の糞便の赤痢菌の有無を調べる仕事をすることになりました。まったくやったことのない仕事を任されて戸惑っております。派遣先の会社でも初の試みだそうです。

 手順ですが, SS寒天培地で成育した菌をトリプトケースソイ培地に継代し, VITEK2で菌の同定を考えています。菌の採取は, まず糞便をSS寒天培地に塗抹することを考えております。これでよいでしょうか???

 培養器はとても古いものを使用するよう言われまして, 温度調節が5℃〜50℃までできるものです。あくまで温度調節ができるだけのものです。湿度の管理が必要ならどのようにしたらよいのでしょうか (蒸留水をビーカーなどに入れて培養器に入れるなどが必要ですか) ???

 全体的な手順がこれでよいのかもとても不安です。お力をお貸しください。よろしく御願いいたします。

【回答】
 実験動物からの赤痢菌の検出経験はありませんが, ヒトの糞便からの一般的な検出法について紹介します。使用する選択分離培地はSS寒天培地で問題はないと思いますが, 赤痢菌の中にはSS寒天培地で菌発育が抑制されるものもあるため, より選択性の低いDHL寒天培地やマッコンキー寒天培地などが併用されることもあります。赤痢菌の場合, 必ずしも湿度管理は必要ないと思いますが, 必要ならタッパーなどの密閉できる容器の中に水で湿らせたガーゼなどを入れて培養するという方法があります。湿度管理はキャンピロバクターなどの検出を目的とする際には特に重要となります。

 赤痢菌は乳糖, 白糖ともに非分解であるため, SS寒天培地で37℃, 24時間培養すると無色の半透明集落を形成します。明確な赤色集落であれば赤痢菌を否定できますが, Shigella sonneiは乳糖遅分解菌であるため, 薄いピンク色の集落を形成することがあります。また発育した菌がグラム陰性桿菌で, チトクロームオキシダーゼ試験が陰性であることを確認することも大切です。

・同定上の注意点
 SS寒天培地に発育した赤痢菌が疑われる集落をトリプチケースソイ寒天培地に継代するとともに, TSI培地やSIM培地 (またはLIM培地) などの性状確認培地に接種することを勧めます。選択培地でスクリーニングした赤痢菌疑いの菌株をさらに絞り込むことが出来ると同時に, 誤同定の危険性を少なくする意味でも大切です。上記の確認培地で, ガス産生性や運動性などが陰性であることを確認した上で自動機器 (VITEK II) を使用した方がよいと思います。

 赤痢菌と大腸菌はDNAの相同性から見ると同一グループに分類され, 鑑別が困難な菌株が存在します。同定キットや自動機器で赤痢菌と誤同定されてしまう大腸菌が問題となっており, これらの菌株の中には赤痢菌の血清型別用の抗血清に凝集する菌株もあります。

 ヒトから赤痢菌が分離された場合, 2類感染症として報告する義務があるため, 届出に際しては, 保健所や衛生研究所などにお願いしてinvEやipaHといった病原遺伝子を調べた結果を基に慎重に対応しているのが現状です。少し質問内容から逸れてしまいましたが, 赤痢菌との鑑別が困難な類縁菌が存在することに注意してください。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)

【質問者からのお礼】
大変ご丁寧な回答をいただき, 感謝しております。ありがとうございます。また何かありましたら, 質問させてください。よろしく御願いいたします。

【読者からの意見】
 いつも参考にさせていただいています。地方衛生研究所にて細菌検査を行っている獣医です。

 赤痢菌の検出についてですが, 2004年に感染症法が改正され, “獣医師からの届出義務”が追加されました。実験動物としてサルを扱うことは稀かと思いますが, サルを細菌性赤痢と診断した場合は届出の必要があります。他の動物から赤痢菌を検出した場合も保健所等に相談されるのが良いかと思います。


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