08/12/01
■ 持続CDトキシン陽性患者の取り扱い
【質問】
 はじめまして。回復期リハビリ病棟担当医の■■と申します。“持続CDトキシン陽性”の偽膜性腸炎患者に対する感染対策をどこまで行う必要があるかとのことで質問させていただきます。

 現在はClostridium difficile関連性腸炎が院内感染を生じる可能性は広くいわれていますが, 本院でも以前に院内感染が疑われるケースがありました。また, 回復期リハビリ病棟という特徴のある病棟のため, (1) 数ヶ月のスパンで患者が入院する (長期暴露の可能性), (2) 多くの患者が手すりなどの補助具を使用する (感染しやすい環境), (3) 個室附属のトイレがない, (4) 抵抗力の弱い患者も多い, (5) リハビリで共有する機材も多いなどのことから, C. difficile関連性腸炎が発症した際は“個室隔離”という対応をとっております。しかし, C. difficile関連性腸炎は再燃・再発も多く, なかにはCDトキシンが持続陽性を呈してしまう方もおり, その感染対策をどこまで行うか, ご相談させていただきました。例えば:

(1)● CDトキシンは陽性だが, 症状はなく, 普通便がでている
● CDトキシンは陽性だが, 発熱などはなく, 軟便3〜4回/日程度はある
のような方の場合, 隔離の必要性などありますか???

(2) 症状は安定していても, CDトキシンが「陽性」であれば, 院内感染のリスクはありますか???

(3) また, 腸内細菌の正常化を図るヤクルト400 R摂取などを促していますが, 医学的な見地からの意味合いはいかがでしょうか???

看護師やスタッフへの指導も併せて, ご意見をお願いいたします。

【回答】
 Clostridium difficile感染症例における感染対策についての質問で, 多くの医療施設で困っている点だと思います。C. difficile感染症の発症は, (抗菌薬の使用を含めた) 宿主側因子の影響を強く受けるために,“どんな医療施設でも, どんな患者さんでも, これが絶対に正解!!!”という回答は難しいです。多少ともエビデンスに基づいた意見を以下に述べます。

(1) 隔離について
・糞便中C. difficile毒素陽性だが, 症状はなく, 普通便がでているような方の場合, 隔離の必要性などありますか???
 そもそも, 症状のない方にはC. difficileの検査を行わないのが基本です。医療施設や病棟, どのような基礎疾患を持った方が入院しているか等々によって, 陽性率は異なるかと思いますが, どんな病棟にもある程度の“無症候キャリア”の症例は認められると思います。そのような方を含めて, 特に (質問のような) ハイリスク症例が多いと考えられる医療施設では, “入院症例全例において標準予防策をしっかり行うこと”が必要かと思います。

・糞便中C. difficile毒素は陽性だが, 発熱などはなく, 軟便3_4回/日程度はあるような方の場合, 隔離の必要性などありますか???
 軟便3〜4回という症状が, C. difficileが原因によるものと診断されたのであれば, 消化管症状が元にもどるまで, 隔離と接触予防対策を行うのが基本かと思います。軟便の原因がC. difficileであり, 軟便という軽度の症状であれば, 誘因となった抗菌薬を中止あるいは変更することで消化管症状はすぐに回復してくるかと思います。

(2) 症状は安定していても, 糞便中C. difficile毒素が「陽性」であれば, 院内感染のリスクはありますか???
 非常に難しいご質問です。隔離の解除は基本的に, 消化管症状の回復, つまり下痢が止まった時ですが, この考え方は固形便と比較して下痢便のほうが, 医療スタッフの手指を含めた環境を汚染しやすいという前提から来ています。ところが, 無症候キャリアが入院している病室環境や患者本人の皮膚表面にも, (消化管症状を呈している症例ほどではないけれども) ある程度C. difficileが認められるという報告があり, 少なくともC. difficile感染症を発症し, 回復した症例については, 隔離解除後も“標準予防策”をしっかり行い, 退院まで注意深く経過を見守ることが必要になるかと思います。C. difficile感染症回復後の症例では, 質問で指摘されているように再発 (再燃および再感染を含む) することが多いので, 抗菌薬使用が必要になった場合は, その選択に特に留意すべきかと思います。また, 繰り返しになりますが, 基本的に“症状が安定している”場合にはC. difficileの検査を行う必要はありません。

(3) また, 腸内細菌の正常化を図るヤクルト400 R摂取などを促していますが, 医学的な見地からの意味合いはいかがでしょうか???
 Saccharomyces boulardiiという真菌製剤を, バンコマイシン内服終了後に内服することで, 再発予防に効果があったという報告がありますが, その他のプロバイオティクスに関しては, 多数の症例における検討で有意に有効であったというデータはありません。多くの臨床報告で効果的とされている感染予防対策は, 病院全体で“抗菌薬の適正使用”に取り組むことです。できるだけ腸内フローラを撹乱しやすい抗菌薬 (広域スペクトラムの抗菌薬や, 腸内フローラを主構成している偏性嫌気性菌に有効な抗菌薬) を選択しないようにすることが最も有効な感染予防対策であることを強調します。

(国立感染研・加藤 はる)


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