07/12/25
08/01/18
■ 純培養菌の保存
【質問】
 純培養についての質問です。純培養した細菌を長期保存する方法を教えて下さい。

【回答】
 一般に, 細菌の長期保存法には, 凍結法, L-乾燥法, 凍結乾燥法などがあります。これらのうち, 凍結法は, 滅菌した10%グリセリン, 10%DMSOまたは20%スキムミルクに菌体を懸濁し, 液体窒素やディープフリーザー中で凍結する方法です。これは特別な設備がなくても, 実験室で簡便に行える方法ですが, 凍結法による保存菌株の寿命が1年ほどであるため, 定期的に再保存する必要があります。

 一方, L-乾燥法, 凍結乾燥法は, 細胞保護剤存在下にて細胞の生命反応の場である水分を取り除き, 細胞を休眠へと導く方法です。この方法では, 使用機器が特別なため, 初期費用が凍結法に比べて高いものの, 多くの菌株で5℃にて10〜20年間は保存可能であるとされています。よって, 保存期間中に生じる余分な費用, 手間はほぼないものと考えられます。現在はL-乾燥法が主流となっており, その保存性に関わる研究も多数報告されております。L-乾燥法の詳細については参考文献 (1)を参照下さい。

 微生物の保存方法全般ついて, 中川 (2006) の解説 (参考文献 (2))に, 各種の保存法の概要とそれらの比較について分かりやすくまとめられており, 参考になるかと思います。手持ちの菌株の使用頻度, 費用および手間などを考慮して保存方法を選択することを勧めます。

〔参考論文〕
(1) 坂根 健・西井忠止・伊藤忠義・見方洪三郎: L-乾燥標品による微生物株の長期保存法. 日本微生物資源学会誌 12: 91〜97, 1996.

(2) 中川恭好: 微生物の保存方法_微生物管理の実際_. 防菌防黴 34: 95〜103, 2006.

(テクノスルガ・ラボ・大村 聖子)
【読者からの意見】
 企業内微生物カルチャーコレクションを運営し, 微生物の保存を20数年行ってきています。今回「質問箱」に掲載された「純培養菌の保存」についての質問への回答で, 回答者が「凍結法による保存菌株の寿命が1年ほどであるため, 定期的に再保存する必要があります」と述べていることに大変驚きました。凍結法で1年間しか生存しない細菌があるかもしれませんが, それはかなり特殊な例だ思います。決して細菌全般に当てはまることではありません。回答者がなにか勘違いをしているとしか思えません。回答者へ凍結法で細菌を保存したときの生存期間について, 再度検討依頼することをお勧めいたします。よろしくご検討ください。

【追加回答】 
 凍結法について, 言葉足らずな箇所があって誤解を招き, 迷惑をおかけしました。以下に, 一般細菌の凍結保存法について付け加えます。

 凍結法には, 菌株を培養した培地とともに−20から−90℃で凍結保存する方法や, 菌株を保護剤に懸濁し, 液体窒素やディープフリーザー中で凍結保存する方法があります。これら凍結法による菌株の保存性 (保存期間) については, 菌株の凍結感受性, 使用培地, 保護剤の種類, 菌懸濁液の濃度, 凍結速度および保存温度など, 様々な要因により左右されることが知られています。私の施設では, 操作の簡便性から10%グリセリンあるいは20%スキムミルク (嫌気性菌および乳酸菌の場合) を保護剤として用いて調整した菌懸濁液をディープフリーザー中 (−80℃) で凍結保存する方法を採用しています。多くの菌種は, 保護剤を用いた凍結法で半年〜10年以上の長期保存性が報告されていますが (参考文献3), 私自身の経験で, 長期保存がうまくいかなかった例 (一部の乳酸菌, 嫌気性菌, また環境中より分離された未同定菌など) も少なからずあることから, 念のため一年毎に凍結保存品の再調整を行っています。

〔参考論文〕
根井外喜男 編 (1977): 微生物の保存法. 東京大学出版会, 東京.

(テクノスルガ・ラボ・大村 聖子)

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