08/09/25, 29
■ “かびの胞子”の構造を知りたい
【質問】
 (1) 現在, カビの胞子を対象に殺菌実験を行っているのですが, 殺菌効果を検証する上で, 胞子の構造の理解が不可欠であることがわかりました。そこで論文や図鑑・解説書等で構造を調べましたところ, 菌糸の細胞,分生子,細菌の芽胞の構造は見つけることはできたのですが, “カビの胞子の構造”が書いてあるものを見つけることができませんでした。細菌の芽胞に似たような構造になっているのでしょうか???

(2) カビは細胞壁が厚く, メチレンブルーやCTCなどの一般的な染色剤が透過しにくいと聞いたのですが, 内部の構造を観察するよい方法はないでしょうか???

臨床微生物迅速診断研究会の「質問箱」を見て, もしかしたらアドバイスいただけるのではと考え, 門外漢なのですが, よくわからずに送信させていただきました。

【回答】
(1) カビの胞子の構造は層状になっており, 研究者によってその名称は異なり複雑です。分類群により異なりますが, 一般には5層に分けられています。内側から外側に向けて, (1) 胞子内膜 (endosporidium, corium: 通常は薄く, 胞子形成に関わる), (2) 胞子壁 (episporidium: 厚く, 胞子の形状機能に関わる), (3) 胞子外壁(exosporium, tunica: 胞子の表面構造に関わる), (4) ペリスポリウム(胞子外壁 perisporium, mucostratum, myxosporium), (5) エクトスポリウム (ectosporium)。カビの胞子の構造は細菌の芽砲の構造とは異なります。また, カビの胞子の図解については, 分類群により様々な文献が知られていますが, 以下に示す文献に代表的なカビの胞子の図解が示されていますので参照ください。

〔参考文献〕
ジョン・ウェブスター著 (椿啓介・三浦宏一郎・山本昌木 訳) ウェブスター菌類概論. 講談社, 東京, 1985.

Wester J and Weber RWS: Introduction to Fungi, 3rd ed. Cambridge University Press, UK, 2007.

(2) カビの光学顕微鏡観察用のプレパラート作製には用途に応じて様々なマウント液が用いられています (ラクトフェノール液, 乳酸液, シェアー液, KOHなど)。さらに, 胞子や菌糸などの細胞の内部構造を観察するには, これらのマウント液には用途に応じて様々な色素を添加して用います。この色素は酸性色素, 塩基性色素, 直接染料などのグループに分類されます。酸性色素は主に細胞質の染色に用いられ, フロキシン (明るいピンク色に染色される), 酸性フクシン, アニリンブルーなどがあります。塩基性色素は主に核の染色に用いられ, サフラニン液などがあります。直接染料は媒染剤を用いなくても, セルロースなどを染色できる色素で, コンゴーレッドやトリパンブルーなどが知られています。これらマウント液と色素を組み合せた代表的なマウント液として, ラクト_フクシン (酸性フクシン 0.1 gram, 乳酸 100 ml), ラクトフェノール・コットンブルー液 (結晶フェノール 20 gram, 乳酸 20 gram, グリセリン 40 gram, コットンブルー 0.05_1 gram, 蒸留水 20 ml) などが広く用いられています。また, 暗色系の色の濃い胞子などの内部構造を観察する際は, 次亜塩素酸ナトリウム液 (またはキッチンハイターなどでも代用可) に浸して, 色を薄くすることで観察がし易くなります。さらに内部構造を詳細に観察したい場合は, 超薄切片を作製して透過型電子顕微鏡による観察を勧めます。

〔参考文献〕
岡田 元: 実験室における菌類の形態観察と記録法: 顕微鏡観察用試料の作製法と観察法の基礎. 日本菌学会報 38: 47〜58, 1997.

松島恵介: 実験室における菌類の形態観察と記録法: 菌類の写真、線画およびその画像処理1. 日本菌学会報 42: 112〜119, 2001.

(テクノスルガ・ラボ 喜友名 朝彦)


【質問者からのお礼】
 ●●大学の■■です。お世話になっております。カビの胞子の構造と観察法についての回答を受け取りました。わかりやすい内容で大変参考になりました。文献を載せていただいたので, 調べてみようと考えております。お忙しい中返信くださりありがとうございました。


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