08/07/17,09/06/30
■ 改正日本薬局方第一追補について
【質問】
 はじめまして。私は医療用医薬品会社で微生物試験を担当しております■■と申します。現在, 「第十五局改正日本薬局方第一追補」への対応で, 文書の改訂などしているのですが, 身近に詳しい方がおらず, 相談できる微生物関係者もいないため, この「質問箱」を利用させていただきました。

(1) 特定微生物試験で, 胆汁酸抵抗性グラム陰性菌, クロストリジア, カンジダが追加されておりますが, 弊社の製品に必要のない菌に関しては実施しない方向で考えておりますが, 現状としまして, 根拠が見つからず困っています。それぞれの菌に関して, どのような場合は行うべきなのか, もしくは行わなくてもよいのか, 教えて頂けますでしょうか???

(2) 特定微生物試験に用いる培地の性能試験の評価方法としては, 有効性が確認された培地で, 以前と同等の発育が認められた場合, 「適」となりますが, 同時試験する必要はなく, 前回の結果に対して (比較する) でよいのか, また, 生菌数試験使用培地のように菌数で比較せずに, “菌の状態”で比較するというかたちでよいのでしょうか???

 初心者の質問となり申し訳ありませんが, 宜しくお願い致します。

【回答】
(1) 特定微生物試験は, 原料や製剤が既定の微生物学的品質規格に適合するか否かを判定することを主目的にしています。すなわち,「質問者の会社の製品に必要のない菌」は“存在しない”と考えられます。胆汁酸抵抗性グラム陰性菌は大腸菌, サルモネラ, クロストリジアの病原菌としては破傷風菌, ボツリヌス菌, ガス壊疽菌, ディフシル菌, カンジダはヒトのカンジダ症を引き起こす酵母として知られています。これらの微生物の否定試験を実行するにあたっては, 指定されている微生物を製品に接種して, 適切な培地を用いて検出できるか否かを検査する必要があります。もし, 微生物の接種なしに製品だけでこれらの検査をしても, 陰性の場合, 検査方法が正しかったか否かの判断はできません。

(2) “菌の状態”という意味がわかりません。培地性能の適合性については,「培地性能の評価の仕方は、カンテン培地では、接種菌の出現集落数は標準化された菌数の計測値の1/2から2倍以内でなければならない」(すなわち生菌数で評価する) と記載されています (第一追補, 微生物限度試験法 B-17, 廣川書店)。

(日水製薬・小高 秀正)
【読者からのコメント】
上記の回答 (1) についてコメントします。回答者は,“質問者の会社の製品に必要のない菌」は“存在しない”と考えられます”とのコメントと, 胆汁酸抵抗性グラム陰性菌, クロストリジア, カンジダの試験を実施すべき (と受け取れる) 回答をされていますが, これについて一言, 意見を述べたいと思います。
 局方には,「非無菌医薬品の微生物学的品質特性 非無菌製剤に対する微生物学的品質基準」が掲載されており, 剤形別に重要な菌種が指定されています。例えば, 経口固形剤の場合には, 総好気性微生物数, 総真菌数, 大腸菌が指定されています。吸入剤には, 総好気性微生物数, 総真菌数, 大腸菌, 黄色ブドウ球菌, 胆汁酸抵抗性グラム陰性菌が指定されています。従って,“この剤形別品質基準に基づいて試験項目を選択し, 試験を実施する”というのが基本的な手順といえます。つまり,“局方に記載されている試験方法のすべてを実施しなければならない”ということではないのです。勿論, 使用される原料や製造工程, ならびに製剤の特性によっては, これら以外の試験項目を選択する必要性はあります。

 「クロストリジア」は, 原料や製造工程あるいは製剤において嫌気性となるところがある場合には設定する必要がありますが, 通常の好気性環境下で製造される粉末状の原料や粉末製剤については試験項目として設定する必要はないと考えられます。
 「カンジダ」は, カンジダ症と関連する膣剤やその関連製品には設定する必要がありますが, 例えば経口製剤等には試験項目として設定する必要はないと考えられます。
 「胆汁酸抵抗性グラム陰性菌」は, JP/USPでは吸入剤にのみ指定されている項目です。呼吸器系に直接噴霧する吸入剤ですので, 体内への吸収が速いことからその品質を厳しく制御しなければならないことから, 否定試験として指定されています。つまり, 吸入剤以外には試験項目として設定する必要はないと考えられます。この胆汁酸抵抗性グラム陰性菌は, 大腸菌, 大腸菌群, サルモネラ, 緑膿菌を含めて, 胆汁酸に抵抗を示すグラム陰性菌であれば, 否定試験で「陽性」となります。菌種の範囲がかなり広くなるため, 好ましくない微生物以外の菌種が存在する原料や製剤は頻繁に「陽性」となる可能性があります。その点を充分考慮する必要があります。
 再度繰り返しますが, 闇雲に全試験項目を選定するのではなく,「試験対象となる原料や製品の特性や過去の事例等に応じて, 試験項目を選定する」といううのが最良の方法と考えます。是非とも, 私の意見をWEBに掲載願います。


戻る