08/03/28,04/04
■ 喀痰からインフルエンザ菌とMRSA
【質問】
 いつも勉強させていただいております。臨床検査技師の身分でありますが, 治療に関する質問です。入院患者の喀痰検査でしばしば遭遇する事例です。

 培養所見でヘモフィルス菌とMRSAの組み合わせの場合です。MRSAが極少数の場合はヘモフィルス菌を対象とした治療でもよいのでは??? と素人的に考えますが, 両方が多数検出されている場合に判断に苦慮します。どういう抗菌薬の選択, 処置がよいのか, 今後の検査に生かしてと思い質問しました。

〔症例〕脳外科の患者で63歳, 女性。レントゲンで肺炎所見あり。40℃の発熱あり。喀痰の肉眼的所見 P3。顕微鏡で白血球多数もグラム染色で明らかな貪食はなし。ヘモフィルス・インフルエンザ3+, MRSAを3+ 検出。

〔薬剤感受性試験の結果〕
ヘモフィルス・インフルエンザ菌: ABPC, ABPC/SBT, CTX, CFPM, MEPM, CPFX, すべて(感性 S), βラクタマーゼ(陰性)

MRSA: GM, AMK, ABK, VCM, TEICのみ (感性 S)

以上, 臨床医から聞いた所見と検査所見です。当院では感染症専門医がおりませんので, こういった質問をする機会がありません。教えていただきたくメールしました。

【回答】
 ご質問には記載がありませんが, グラム染色で観察された菌はどうだったでしょうか??? もしある種の菌が多数見られたということであれば, それが貪食されていなくても, 起炎菌でないとはいえないと思います。培養は細菌を増殖させて検出しますので, 培養結果の3+, 2+という菌量は必ずしも本来の状態を反映するとは限らず, グラム染色所見を重視したいところです。

 一般的にはMRSAによる肺炎は, 高齢者や慢性呼吸器疾患患者がインフルエンザウイルスなどのウイルス感染症を起こした後の2次感染, 菌血症の合併症 (感染性梗塞) 以外は多くなく, 挿管などされた患者で様々な抗菌薬を使用された後に時にみられる程度です。従って, この症例の場合も, そのような臨床的背景がなく, グラム染色では主にグラム陰性桿菌が見えており, グラム陽性球菌は少ないということであれば, MRSAは単なる定着菌を検出しただけである可能性が高いと思われます。そういう意味で, 検査所見以外に, 臨床情報も重要です。市中肺炎か, 院内肺炎か, 脳外科の患者ということですが全身状態や挿管の有無, 基礎疾患 (特に慢性呼吸器疾患や喫煙の有無, 糖尿病など), 誤嚥の有無といった情報です。検査所見と臨床情報をあわせ, MRSAが起炎菌である可能性は低いと考えれば, インフルエンザ菌を標的に治療し, グラム染色を含めた臨床経過を見ます。この症例の場合は, 薬剤感受性とβラクタマーゼ「陰性」という所見から, アンピシリン (ビクシリン) が候補になります。βラクタマーゼ産生菌であれば, アンピシリン/スルバクタム, BLNARならセフトリアキソン, セフォタキシムなどが選択されると思います。もし, グラム染色でグラム陽性球菌も沢山見えており, 臨床的背景からも混合感染を否定できない場合, あるいは非常に重症の院内肺炎では最初からインフルエンザ菌, MRSA両者を標的に治療することもあり得るかもしれません。

(虎の門病院・米山 彰子)

【質問者からのお礼】
 大変お忙しいなか, ご回答いただきありがとうございました。先生のご指摘のとおり, 喀痰に限らず, 日常提出される臨床検体におけるグラム染色所見が非常に重要であると思います。この患者のグラム染色では, ヘモフィルス菌, MRSA以外にも口腔内常在菌も中等度確認されていました。臨床医が総合的に判断し, どの菌を原因菌と考えて治療したのか, 機会があればコンタクトをとって聞いてみようと思います。これからも, 臨床に有用な検査結果を提供できるように努力していきたいと思います。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。


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