08/04/01
■ 環境からのグラム陽性球菌
【質問】
 初めて質問させていただきます。株式会社●● 品質保証課の■■と申します。

 当社の工場内で, エアーサンプラーを用いて環境検査を行うと, グラム陽性の球菌がよく検出されます。中には“芽胞形成菌”のように観察される球菌も含まれています。書籍などでグラム陽性球菌について調べると, 多くはStaphylococcusと連鎖球菌類のよく知られた菌についてしか掲載されていません。また, 芽胞形成球菌はSporosarcina のみでその特性については何も書かれていません。

(1) 芽胞を形成するグラム陽性球菌はSporosarcina のみなのでしょうか???

(2) また(グラム陽性) 球菌を分類する簡易同定方法はないでしょうか??? (属同定までは必要としていません)。

 ちなみに現在, 菌を検出した時には, (1) グラム染色, (2) カタラーゼ, (3) オキシダーゼ, (4) O-Fテスト, (5) 運動性および酸素に対する態度を基本同定試験として実施しています。よろしくお願いいたします。

【回答】
(1)Bergey’s Manual of Systematic Bacteriologyによると, 現在, 既知の芽胞を形成するグラム陽性球菌はSporosacina属およびSarcina属があります。Sarcina属は嫌気条件下でしか生育しません。Sporosacina属の中でもすべてが球菌ではありません。10種のうち3種は球菌で, 他は皆桿菌です。また, 芽胞を形成する球菌は非常に稀です。

(2)グラム陽性球菌を分類する簡易同定方法については, 質問者の現在実施している各項目で, 属まで同定できる試験だと考えます。もし, 属同定まで必要ないのならグラム染色のみでもよいでしょう (質問者の“属同定までは必要としていません”の“属”は“種”の間違いでしょうか)。グラム陽性球菌の区別は, グラム染色での細胞の形態や細胞の配列, または着色(染色状態)の具合などから推定できる場合がありますが, これは相当経験が必要とされる話です。普通の同定方法としては, 質問者が実施している試験は基本です。また, 別に簡易な方法を求めるより, むしろ今実施している試験項目を上手に利用して, 場合によっては2_3項目の実施で区別ができるかもしれません。例えば, 実施する試験の順番としてはまずはグラム染色, これでグラム陽性球菌と確認したらカタラーゼとオキシダーゼ試験を実施し, 両方とも「陰性」の場合は乳酸菌(Enterococcus, Lactococcusなど) の可能性があると考えてもよいです。細胞が連鎖し, カタラーゼとオキシダーゼ試験「陰性」の場合はStreptococcusの可能性があります。カタラーゼ「陽性」, オキシダーゼ「陰性」の場合はStaphylococcusMicrococcusの可能性があります。この2属の区別にはFurazolidoneに対する薬剤感受性試験を実施すればわかります (Staphylococcusは感受性, Micrococcusは抵抗性)。カタラーゼとオキシダーゼ, 両方とも「陽性」の場合はMicrococcusの可能性が高いです。Micrococcusは嫌気条件下で生育しませんが, 上記の他の属はほとんど嫌気条件下で生育し, グルコースを発酵します。運動性はEnterococcus属の一部の種で運動性「陽性」ですが, 上記の他の属はほとんど運動性「陰性」です。

 すべての例は挙げられないですので, 具体的には成書と照合しながら実施してください。

(テクノスルガ・ラボ・立里 臨)


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