07/01/22
■ 感染性腹部大動脈瘤について
【質問】
 はじめまして。いつも参考にさせていただいていましたが, 今回は質問をさせていただきます。

 今回“腹部大動脈壁”の一部として提出された検体から, グラム染色にてラセン菌を確認し, キャンピロバクター培地にて発育を認めました。いろいろな資料を検索しましたが, 起炎菌と考えられる菌種がはっきりと書かれている資料がみつかりませんでした。臨床側は「炎症性腹部大動脈瘤」と診断し, 原因は不明とのことでした。このラセン菌が何らかの影響があったものか否かはわかりませんが, 検査側としてはデータをまとめたいと思いまして, 今回「質問箱」を利用させていただきました。

(1) 炎症性および感染性腹部大動脈瘤の定義は???
(2) 感染を誘発する (原因となる) 細菌とは???
(3) ラセン菌をキャンピロバクター菌としてよいのかどうか・・・また, 原因菌となり得るのか???

正月早々で恐縮ではありますが, よろしくお願い致します。

【回答】
(1) 炎症性および感染性腹部大動脈瘤の定義は
 定義というものは特にないと考えます。基本的には, 臨床的あるいはこれを裏付ける科学的所見があるかどうかを調査する必要があります。まずは動脈瘤と細菌感染との因果関係を明らかにすることです。腹部大動脈瘤は他の原因でも認められ, 特に動脈硬化症に伴う二次的な動脈瘤は日常よく認められます。この事例の年齢, 性別, 症状や検査所見などが明らかにされていませんので, 文面だけからは充分な回答ができません。

(2) 感染を誘発する(原因となる)細菌とは

(3) ラセン菌をキャンピロバクターとしてよいか
 ラセン状菌で, キャンピロバクター培地に発育したということで, 本菌はキャンピロバクターと推定されます。これだけでは不充分ですので, さらに細菌学的性状を検査し, 菌種同定をする必要があります。CampylobacterにはC. jejuniC. fetusが知られていますが, 血行性感染を起こすのは.fetusです。C. fetusでは菌血症や循環器系臓器への感染が知られており, 血管壊死をきたします。また, 腹部大動脈瘤の原因となることもあります。文献的検索をして下さい。参考文献として下記のものをあげましたが, やや古いものです.

C. fetusによる脈管感染の文献〕
Loeb H, Bettag JL, et al.: Vibrio fetus endocarditis. Am Heart J. 71: 381, 1966.
Killiam, HA, Crowder JG, et al.: Pericarditis due to Vibrio fetus. Am Heart Cardiol. 17: 723, 1966.

(近畿大学・古田 格)


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