07/06/04
■ 寒天培地での細菌培養
【質問】
 はじめまして。初めて「質問箱」を利用させていただきます。

 現在, 私が取り扱っているTenacibaculum maritimum (Flexibacter maritimusFlavobacterium columnare (Flexibacter columnaris)の2菌株で, 寒天培地での培養がうまくいきません。現在使用している培地はTenacibaculum maritimumがMarine Cytophaga Agar (NBRC Medium No. 333, 27℃で培養)で, Flavobacterium columnareがFlavobacterium columnare agar (NBRC Medium No.334, 20℃で培養)です。このほかにBHI agarなども使ってみました。他に適した培地や適切な培養方法がございましたら, ご助言ください。また, 細菌培養の各論の参考になる本などがありましたら, 併せて教えていただけると幸いです。よろしくお願い致します。

【回答】
 ご質問の2菌種とも, 病院検査室ではほとんど目にすることのない細菌であり, 勉強させて頂きました。Tenacibaculum maritimumは海産魚介類における滑走細菌症または粘液細菌症の原因菌, Flavobacterium columnare は淡水魚類におけるカラムナリス病の原因菌であり, 主に魚病に関わる菌種のようですが, 文献的には質問者が使用されている培地と培養法で問題ないと考えられます。その他の培地としてはAmerican Type Culture Collection (ATCC) が推奨している以下の培地などがあります。

T. maritimum

“Flexbacter medium” 
Solusion A : 
Torypton (BD 211705) ........................0.5 g
Yeast extract (BD 212705) ....................0.5 g
Beef extract .....................................0.2 g
Sodium acetate ..................................0.2 g
Distilled Water ................................300.0 ml
Solusion B
Seawater .......................................700.0 ml (26℃培養)
 A液とB液をそれぞれ別々にオートクレーブ滅菌した後に, 約50℃まで冷ましてから混合します。本培地は寒天培地ではありませんが, 一例として示しました。

F. columnare用 

“Anacker and ordal medium”
Torypton (BD 211705) ........................0.5 g
Yeast extract .....................................0.5 g
Sodium acetate ..................................0.2 g
Beef extract ......................................0.2 g
Agar ..............................................10.0 g
Distilled Water ...................................1.0 L (25℃培養)
 寒天培地での発育の善し悪しには, 培地の新鮮さ (一般的に作りたての方が良く発育する) や水分量なども関与すると考えられますが, 寒天培地に発育しない原因として, 使用菌株そのものの問題もあると思われます。菌株の凍結保存や継代を繰り返して行くうちに, 本来発育する筈の培地に発育できなくなる菌株が稀にではありますが出現します。以前に回答者が経験したことですが, Plesiomonas shigelloidesの臨床分離株を凍結保存や継代培養を何度か繰り返して使用したところ, 分離当初は旺盛に発育していたSalmonella-Shigella (SS) 寒天培地やマッコンキー寒天培地あるいはドリガルスキー改良培地といったグラム陰性桿菌用の寒天培地に発育できない菌株が出現しました。液体培地や半流動培地には良好に発育するにもかかわらず, 上記の寒天培地には発育しませんでした。しかしこの菌株を血液寒天培地やチョコレート寒天培地といった血液成分が含まれるに培地に接種すると, 良好に発育することが分かりました。菌株保存中に何らかの影響で菌が変異 (あるいは損傷???) し, 発育不良となったものと推測されますが, 理由は良く分かりませんでした。ご質問の菌株の培養に血液寒天培地を使用してみるのも1つの手段と考えられますが, 現在使用されている菌株とは違う菌株, 例えば標準菌株であればあまり継代が繰り返されていない元の菌株を使用してみるか, 可能であれば別の新しい菌株を入手して寒天培地での発育性を試みられては如何でしょうか。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


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