07/05/17
■ 結核菌のPCR検査
【質問】
 外科病棟に勤務する看護士です。PCR法について, どのような検査法なのか詳しく教えてください。

 先日, 病棟で“ガフキー2号だった方のPCRが陰性”ということで, マスク着用フリーとなりましたが, PCR「陰性」なら感染しないのでしょうか??? 低レベルな質問ですがよろしくお願いします。

【回答】
(1) PCR法はDNA合成酵素を用いた核酸増幅法の1つで, その微生物に特徴的な特定の遺伝子配列を増幅させる技術です。理論的には温度の上げ下げを繰り返すことにより1分子のDNAを100万倍に増幅致します。PCR法を使用した検査法は主に3つの工程があります。すなわち、1. 検体から核酸を取り出す(抽出), 2. 抽出した核酸を材料として特定の遺伝子配列だけを増やす (増幅), 3. その増幅された産物を確認・同定する (検出) です。したがって, PCR法は1. の工程を支える技術です。2. ではその増幅産物を用いてDNAの相補性や可逆性という性質を利用したDNAプローブ法にて同定します。アンプリコアシリーズのプライマーは抗酸菌属に共通のプライマーを設定していますので, 抗酸菌の仲間であればすべて増幅されます。その増幅産物を結核菌や非結核性抗酸菌であるアビウム, イントラセルラーに特異的なプローブによって同定します。

(2) さて, 結核 (抗酸菌) の検査ですが, 実際には塗抹, 培養, PCR検査を併用して行っています。検体は喀痰が多いと思いますが, 喀痰は粘性が高く結核菌は偏在していることが多いようです。また, 結核菌は栄養要求性が高く, 増殖スピードが遅いとされております。したがって, 前述の3工程の前に, 前処理として均一 (均質) 化し, 雑菌処理 (抗酸菌以外の菌を死滅させる) を行います。塗抹にも直接法と集菌法があります。今回ガフキー2号とありましたが, これは集菌法でしょうか, 直接法でしょうか??? また, 染色はチール・ネルゼン染色でしょうか, 蛍光染色でしょうか??? チール・ネルゼン法は抗酸菌であれば染色されます。したがって, 「陽性」であっても結核菌とは限りません。

(3) PCRは高感度, 高特異性ですが, 抽出の工程で目的のDNAが回収されないと増幅出来ません。すなわち検体中の菌量が微量の時は, 抽出時の確率によって「陽性」あるいは「陰性」となることがあります。したがって, 今回の事例は1. 結核菌群, アビウム, イントラセルラー以外の抗酸菌の可能性, 2. 実際, 標的DNAが極微量であったため, 感度未満であったという2通りの可能性があります。

(4) 結論として, 「PCR陰性」といっても菌の存在を完全に否定できるものではありません。培養の結果や定期的な塗抹検査の結果と併せて, 医師が総合的に判断をし, 感染の可能性を判断すべきです。それまではマスクの着用をお勧めします。

(ロシュ・ダイアグノスティックス・林 邦彦)


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