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【質問】
結核性髄膜炎の確定診断は, 髄液中に結核菌を培養もしくはPCRで証明することですが,「初回髄液の抗酸染色の陽性率は10〜30%と低いことに注意する必要があり,
培養の陽性率は70%程度であり, PCRでのDNA検出率は, 報告によっては20%弱である。したがって,
陰性の場合でも結核性髄膜炎は否定できず, 治療は結核菌の証明を待たずに始めなければならない」と記載されてありましたが,
他の髄膜炎と比べて菌の検出率が低い理由を教えて下さい。また, 本当に陽性率はこのように低値を示すものでしょうか???
宜しく御教授くださいますようお願いします。
【回答】
結核性髄膜炎で髄液から結核菌が検出されにくい理由は, 成書にも記載がありません。しかし,
発症機序や結核病巣の性質を考えると納得できるようにも思えます。発症機序として血行性播種よりは脳室上皮下の病巣がクモ膜下に破れて生じることが多く,
菌体成分に対する免疫反応により炎症が生じるとされています。また, 結核の病巣はフィブリンの増加やマクロファージ・好中球の動員を伴う浸出反応から,
乾酪壊死を伴う肉芽腫形成へと進展します。そう考えると, 一般細菌の場合と違って,
髄液中に菌がたくさん存在しない状態で髄膜炎が生じていることが理解しやすいように思います。結核性胸膜炎でも,
胸腔鏡では90%以上の症例で胸膜などに肉芽腫性結節が肉眼的に指摘できるのに,
胸水からの結核菌の検出率は髄膜炎の場合の髄液より低いものです。
結核性髄膜炎における塗抹検査, 培養検査の陽性率は報告により様々ですが,
検体量, 手技による違いが大きいようです。遠心して沈渣を用いて塗抹・培養検査を行う,
時間をかけて鏡検する (20〜30分), 複数の技師が鏡検するなどの努力がなされる他,
治療開始後を含めて連続4回検査すると塗抹検査の陽性率が87%になる (1回のみでは37%),
検体量が多い方が陽性率が高い (2 ml未満では培養陽性率40%, 6 ml以上では約80%)
などが報告されています。検体量は採取できれば10〜15 mlを勧めているものもあります。下記の文献が参考になります。
〔参考文献〕
・Kennedy DH: Tuberculous meningitis. JAMA 19; 241(3): 264〜268, 1979.
・Thwaites GE: Improving the bacteriological diagnosis of tuberculous
meningitis. J Clin Microbiol. 42(1): 378〜379, 2004.
結核性胸膜炎は予後も悪く早期診断が重要ですので, 検査室としても検出感度を上げる努力をしたいものです。
【質問者からのお礼】
お忙しい中, ご丁寧な回答ありがとうございました。「結核菌検査指針2007」では,
TB検索用髄液量を「2 ml以上」としていますが, いままで陽性検体の「量による陽性率」を考慮して検査してはいませんでした。提出検体全量の沈査による検査だけではなく,
本当に疑わしいケースには, 追加採取と陽性率の低さを臨床側にアピールすることも大切と思いました。的確な回答をありがとうございました。今後とも参考にさせていただきます。
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