08/03/14,21
■ 血液感染と血液の付着した食器
【質問】
 療養型病院で看護師をしている者です。

 入院患者でB型肝炎ウイルスやC型肝炎の代償期には出血傾向が著明となる方がいますが, 通常は食器に血液が付くこともないため, 食器洗浄機 (90℃, 10分) で他患者のものと同じ処理をしていました。しかし口腔内に常時出血を伴う方が出てきますと, 食器に多量に血液が付着してしまうため, 次亜塩素酸Naの消毒の後, 食器洗浄機に入れたいが, 手間がかかるので・・・ということでディスポ容器を使用することに一時決めたようです。

 私としてはコストもかかることですし, 標準予防策のマニュアルを作成している過程で様々な文献を見た上で:

(1)熱水消毒 (食器洗浄機) の前に, 特別に消毒をする必要があるのか???
(2) 一緒に機械に入れると, 他の食器まで汚染するのか???
(3) さらには, 未知なる病原菌を考えれば, 体液・血液が付着している食器はすべて一時消毒をしなければならないのか???

 すべて“NO”だとは思いますが, 確信が持てません。「熱水消毒ができないものを薬物を使って消毒を行う」という基本からずれている気がしてなりません。滅菌前の器材を「気持ちが悪いから」,「シンクが汚れるから」と, 一時消毒を頑なにやり通している職員たちには, 自分一人の知識だけでは信頼してもらえない状況ですので, 専門家のご意見をよろしくお願いいたします。

【回答】
 B型肝炎ウイルス (HBV), C型肝炎ウイルス (HCV), 共に主要な感染経路は感染粒子 (ウイルス) を大量に含む血液を介したものです。従って重要な感染対策は血液対策であり, 糞便対策や気道感染対策は不要であると思います。また質問 (3) の未知なる病原菌を考えて対策をとるか??? については, 質問者が懸念されているように, 今コストを掛けなければならない部分ではないと考えます。慣習で行われているものを変更するにはパワーが必要で, 苦慮されていることと思います。感染対策には様々なガイドラインや解説書などの書籍が出版されていますが, 改善を求める対象者には“どこからの提言が波及的か”を考えて推進されると効果的だと思います。さらに厚生労働省から出されている「ウイルス肝炎感染対策ガイドライン (医療機関内)」を参考にされてはいかがでしょうか。

(愛媛大学・中野 夏代)


【質問者からのお礼】
 業務改善の活動の中で, 栄養課からの情報によると, 回収した食器を洗浄シンクに張った湯の中で一時洗浄する際, 洗い残しの懸念からほとんどのスタッフが素手で行っていたことがわかりました。手荒れを起こすので却って易感染状態になると説明をしてはいますが, 職人意識???なのか, 洗い残しを指摘されるのがいやだからということなので, 見て見ぬふりをしている状態です (本来はゴム手袋着用が義務づけられています)。このような状況では, 血液のたくさん付いた食器を洗ってもらうことは, 傷からの感染のリスクもありうるので止めた方がよいと結論に達しましたので, 血液汚染に関しては“ディスポ食器で対応”することにしました。感染対策ガイドラインなどを見ましたが, 消毒を推奨しているものもあり, 業務が複雑になってしまい混乱を起こしてしまいそうなので, まずは洗浄時の手袋着用という基本を厨房のスタッフにお願いしていこうと思います。様々なガイドラインをみた結果, 作られた時期, 背景が違うためか, 矛盾もありましたが, 施設内で出来ることを選択して取り入れていくのが現実的と思いました。理想はこれ・・という知識は持ちつつ, ここでは出来る範囲でここまで・・という姿勢が必要ですが, 明らかな間違い, リスクについては積極的に改善していきたいと思っています。今回を含め, 数回にわたり愚問にもかかわらず丁寧に回答していただき, ありがとうございました。


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