09/06/27,30
■ 菌集落の表現方法
【質問】
 はじめまして。私は製薬会社で微生物検査および微生物汚染対応を担当している者です。

 微生物 (細菌や真菌) の菌種名同定の際, Bergey's Manual を参照しています。細菌や酵母の集落性状観察の際, 色の記録を行うのですが, Bergey's Manual に記載されている各菌種の色の表現方法には規則があるのでしょうか。参照している色見本が存在しているのでしょうか。また, その他の性状 (集落の表面の状態や周辺の状態など) にも見本のような物があるのでしょうか。

 現在, 各担当者が各々自己流で記録している状態なのですが, 統一したいと考えて質問させて頂きました。

【回答】
 細菌コロニーの色の表現は簡単と思われるかもしれませんが, 実は大変難しいです。理由は“色に対する認識には個人差がある”ことです。Bergey's Manualに記載している細菌コロニーの色は, 各菌種を同定した人の観察によるものであり, その表現方法には特に統一された定めはありません。ただ, 色素の産生については, 培地および培養条件に結果が左右されますので, Bergey's Manualを参照する場合は, 記載されたものと同じ培地で培養したものでなければ比較の意味がありません。

コロニーの形態を表現する用語にも一体の定めはありませんが, Bergey's Manualの記載によく使われる言葉は以下のようなものです:

◆形: circular/円形, filamentous/菌糸状, irregular/不規則形, curled/巻毛状
◆側面: flat/扁平, raised/高くて平ら, low convex/低凸状あるいはレンズ状, convex/凸状あるいは半球状, umbonate/中央隆起
◆周縁: entire/全縁, curled/巻毛状, undulate/波状, lobate/分葉状, eroded/侵食状, filamentous/菌糸状
◆表面: smooth/平滑, rough/粗面

 また, 日本国内での微生物特許申請時に, 細菌コロニー形態の記入に際しての参照図があります。これを参考にして, 各担当者の記入方法を統一しては如何でしょうか[http://unit.aist.go.jp/pod/ci/procedures/form/file500.pdf]。

 酵母やカビなどの真菌類の色の標準としては, Kornerup and Wanscher (1978) やRayner (1970) などを参考にします。しかし, これらの書籍は現在では絶版で入手が困難なため, これらの書籍に代わる色の標準としては, 例えば日本色彩研究所から出ている色見本などを用いてみては如何でしょうか。

 また, 酵母のコロニー形態を表現する用語については, 前述の細菌の場合とほぼ同じです。酵母のコロニーなどの性状観察には“The Yeasts 第4版(Kurtzman and Fell, 1998)”や“酵母の分類同定法 第二版(飯塚・後藤, 1973)”を参照されるとよいと思います。

〔参考文献〕
Kornerup A and Wanscher JH (1978): Methuen Handbook of Colour, 3rd ed., Eyre Methuen, London, UK.
Rayner RW (1970): A Mycological Colour Chart. Commonw. Mycol. Inst., Kew and British Mycological Society.
Kurtzman CP and Fell JW (1998): The Yeasts, A Taxonomic Study, 4th edition. Elsevier, Amsterdam, Netherlands.(来年には第5版が出版予定)
飯塚廣・後藤昭二 (1973): 酵母の分類同定法 第二版. 東京大学出版会.

(テクノスルガ・ラボ 立里 臨)


【質問者からのお礼】
 ご返信ありがとうございました。お忙しい中だったと思いますが, 丁寧なご対応に感謝いたします。是非, 参考にさせていただきます。


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