08/12/11, 16
■ これはなんでしょうか??? カビ???
【質問】
 初めてメール致します●●県の■■と申します。質問事項と事案は以下のとおりです。

 購入した天然水のペットボトルの水中に沈殿していた“黒いもの”の同定を依頼されましたが, 専門ではない (菌類の知識もほとんど持ち合わせておりません) ため返答に困っています。顕微鏡写真を5枚 (一枚は大きさを測定したもの) 添付しました。お判りになる範囲で構いませんので, コメントなどご教示いただけると幸甚です。一応, お風呂場などでよく見かける“クラドスポリウムの仲間”の菌糸体ではないかと考えていますが, 培養等しておりませんので詳細が全く判りません。よろしくお願い申し上げます。

 なお, 私の専門は法科学のうちの筆跡・印影・痕跡・微細物と法地学です。微細物を取り扱っていた関係で, このような依頼をよく受けますが, 造岩鉱物や微化石, 珪藻などはある程度こなせますが, 所謂カビは専門外です。お忙しいところお手数を煩わすなど, ご面倒をお掛け致しますが, ご配慮頂けるととても助かります。重ねてよろしくお願い申し上げます。
 
(400倍)
(1,000倍)
(100倍)
(400倍)
(1,000倍計測)
【回答】
 添付された写真および「ペットボトルの水中に沈殿していた“黒いもの”」の情報からクラドスポリム属(Cladosprium)のカビだと考えられます。

 質問者のメールに添付されていました写真の一枚と形態概略図との関係を図に示します。クラドスポリウム属のカビは添付図のような形態を示します。質問者からの添付写真の中には暗褐色に着色した菌糸, 球形〜楕円形の胞子 (分生子: 図中の赤丸), 円筒形で端がややギザギザ状 (おそらく出芽点) の細胞 (枝状分生子: 図中の青丸) が認められます。クラドスポリウム属の分生子は出芽的に連続して形成されますが, プレパラートにした時に分生子の鎖がばらけてしまい, 様々な大きさの細胞がばらけた状態になります。その中で枝状分生子のような細胞も同時に認められることが多いです。おそらく添付写真(1番目の400倍) はその状態である可能性が考えられます。また, 別の写真(1,000倍)に認められる菌糸上の球状に膨らんだ細胞はおそらく厚膜胞子ではないかと考えられます。

 クラドスポリウム属菌は自然界では枯死した植物体上に多く生息していますが, 空気中にも多く, しばしば食品や飲料等のコンタミ菌としても知られています。ただし, カビの同定には「胞子 (分生子) がどのように形成されるか」が重要になります。今回の添付写真では形態的特徴として根拠が乏しいため, クラドスポリウム属だというのはあくまで推定だということをご了承願います。

(テクノスルガ・ラボ 喜友名朝彦)


【質問者からのお礼】
 先日質問いたしました●●県の■と申します。不躾な質問にも拘わらず, 丁寧な回答をお寄せいただき, 心から感謝申し上げます。私を含め, 素人は安易に結果ばかりを求めたりますが, やはり同定するためにはそれなりの観察や実験を行い, 結論を導くことが必要であることを改めて痛感した次第です。もう少し勉強をしなければならないことを肝に銘じつつ, 取り急ぎ, 御礼を申し述べさせて頂きます。“本当に、ありがとうございました”


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