09/09/03
■ “好稠性かび”とM40Y寒天培地
【質問】
 初めて質問させていただきます。食品の微生物検査を担当しており, かびの検査について今まで使用していたCP添加ポテトデキストロース寒天培地に加えて, “M40Y寒天培地”の併用を検討しております。

“M40Y寒天培地”の組成について調べたところ, ショ糖を使用しているものが多いのですが, 中にはブドウ糖を使用しているものもあり, どちらを使用すべきか悩んでいます。調べた限りでは同じ好稠性かび用の培地であるMY20寒天培地についてはブドウ糖で統一されているようなのですが, グルコースではなくショ糖を使用する理由はあるのでしょうか。ショ糖も最終的に分解されてブドウ糖になるため, 糖として大きく変わるものではないようですが, ショ糖から二分子のブドウ糖になり, さらに炭酸ガスと水に分解する過程がはいることで好稠性かびはエネルギーを蓄えるという話も聞きました。好稠性かびを目的とするのであれば, ショ糖を使用するべきでしょうか。

 もう一点ですが, かびの培地には原則的に抗生物質を添加すると思うのですが, MY20寒天培地には抗生物質は添加する必要がないという文献がありました。M40Y寒天培地についても抗生物質の添加は必要だと思うのですが, なぜMY20寒天培地には抗生物質を添加する必要はないのでしょうか。ご回答よろしくお願いいたします。

【回答】
 結論から申しますと, M40Y寒天培地 (以下, M40Yと略。40%スクロース含む) とMY20寒天培地 (以下, MY20と略。20%グルロース含む) でグルコースとショ糖 (スクロース) を使い分けている明確な理由は分かりません。目的に応じてどちらを使っても大丈夫だと考えます。

 元来, M40YとMY20は好乾性 (好稠性) のEurotium属やAspergillus属のカビを同定するための培地として利用されています。中でもM40Yは一部のカビの生殖器官の形成に適した培地としても推奨されています。M40Yでグルコースではなく, スクロースを使用する明確な理由は分かりませんが, スクロースがカビの生殖器官の形成に利用されていることも考えられ, スクロースを利用できる/できないが, 種類を識別する際の一つの指標とされていると考えられます。また, スクロースはグルコースとフルクトースが結合した二糖類であるため, カビがスクロースを利用するためには分解酵素 (スクラーゼ) が必要となり, すべての菌種がその酵素を持っているわけではありません。酵母の仲間はグルコースをほとんど利用できますが, スクロースを利用できる種類は限られることから, 生理性状の一つの特徴とされています。そのため, グルコースよりもスクロースを含んだ培地で生えてくる菌種に差がでてくると考えられ, スクロースよりもグルコースを使用する方が幅広い種類を分離できる可能性があります。カビの分離にM40Yを用いる時に, グルコースとスクロースを使い分けてみて, 分離される菌種に違いがあるのかどうか, 検討してみてはいかがでしょうか。最近では好乾性 (好稠性) カビを分離する時に, ジクロラン・グリセリン18寒天培地(DG18)も幅広く利用されていますので, 検討してみてはいかがでしょうか。

 次に, 抗生物質の添加についてですが・・・まず, カビの培地に抗生物質を添加することは“原則”ではありません。必ず添加する必要はありません。各種の試料からカビを分離する際に, 細菌等の混入・生育を抑える目的で培地に抗生物質を添加することはあります。従って, 目的や試料の状態に応じて培地に抗生物質を添加しています。

 ほとんどの細菌は, 水分活性(Aw)が0.95以上でないと生育できず, 低い水分活性で生育できる細菌は一部に限られることから (耐乾性菌, 好塩性菌や耐塩性菌, 芽胞などの耐乾性の構造を形成する菌など), MY20(Aw = 0.97)やM40Y(Aw = 0.93)に必ずしも抗生物質を添加する必要はありません。試料中に細菌がかなりの菌数で生育している場合はその限りではないといえますが。

(テクノスルガ・ラボ 喜友名 朝彦)


戻る