09/03/09
■「好熱性細菌」と「耐熱性細菌」
【質問】
 こんばんは。いつも参考にさせていただいております。私は食品会社の研究所に勤めている●●と申します。

 よく文献などで,「好熱性細菌」と「耐熱性細菌」という言葉を見ます。一般的に好熱性と言うと,「45℃以上の高温でよく生育する」という特徴を指します。一方, 耐熱性と言うと「(漠然と) 高温でも死なない。D値が高い。」というイメージを持ちます。これに沿ったとき,「好熱性」ではないけれど,「耐熱性」があるような菌というのはいるのでしょうか??? (芽胞形成菌は除きます)。例えば, 至適生育温度が30〜37℃で, 75℃でのD値=1分という菌がいるとすれば,「好熱性」とは言い難いけれど (一般的な細菌の中では)「耐熱性」があるといえると思います。パッと思い浮かんだものでは, “火落ち菌”の一種であるLb. fructivoransなんかは比較的このような菌に近いのではないかなと思います。“火落ち菌”と呼ばれるだけあって「耐熱性」というイメージはあるけども,「好熱性」というイメージはありません。他にもこのような菌はいるのでしょうか??? 

 また逆に,「耐熱性」はないけれど,「好熱性」な菌っているのでしょうか??? 至適生育温度45〜50℃だけれど, 60℃くらいになるとすぐ死滅してしまうような菌ということになろうかと思いますが, このような菌はいるのでしょうか???

 文献では「好熱性」と「耐熱性」がほとんど同じような使い方がされているため, 耐熱指標菌設定などの場面で間違った選択をしないか心配です。「好熱性」⇔「耐熱性」という関係であるなら, わかりやすくていいのですが, これに当てはまらないものがあるならば知りたいです。何卒, ご回答をよろしくお願いいたします。

【回答】
 調べてみますと明確な定義はないようです。好熱性細菌は「総合食品事典 同文書院」に記載されている内容を示します。「高い温度領域で生育する1群の細菌を好熱 (性) 細菌あるいは高温 (性) 細菌という。好熱性細菌に関する明確な定義はない。もっとも典型的な高度好熱性菌には10種ほどの菌が知られている。Thermus thermophilusはグラム陰性の桿菌である。伊豆の温泉から分離された黄色の色素を産生する菌の生育最適温度は65_75℃である。アメリカのイエローストンの自噴泉から分離されたグラム陰性の桿菌Thermus aquaticusは70℃が生育最適温度である。同じくイエローストンの自噴泉から分離されたThermimicrobium roseumはグラム陰性の不規則な桿菌で85℃で生育する。また, Bacillus caldotenaxはグラム染色不定の有芽胞桿菌で生育適温度は80℃である。高度好熱性菌の他にも, 適性好熱性菌 (50_60℃) としてBacillus subtilis, Clostridium, 絶対好熱性菌(55_65℃)としてBacillus coagulance, Bacillus stearothermophilus, 超高度好熱性菌(90_92℃)としてSulfar bacteriaが記載されています」。

 耐熱性菌は, 乳・卵製品の腐敗変敗原因菌として重要です。「Compendium of Methods for the Microbiological Examination of Foods」には, 「耐熱性菌は一般的には15_37℃の中温で生育する細菌が, 食品中では60_80℃でも生残する細菌である」と記載されています。乳や卵での報告が多く, Micrococcus, Streptococcus, Lactobacillus, Bacillus, Pseudomonas, Staphylococcus, Corynebacteriumなどが分離されています。質問者は研究所勤務ということなので, 多くの文献 (海外の文献を含む) をお読みになり, 今回の質問のような事例を捜してみてください。

(日水製薬・小高 秀正)


【質問者からのお礼】
 ありがとうございます。私も食品会社に勤めておりますので, 特に食中毒菌や変敗菌には注意していきたいと思っています。今後の参考にさせていただきたいと思います。


戻る