07/12/21
08/01/17 08/01/18
■ 抗酸菌染色での蛍光染色法とチール・ネールゼン法
【質問】
 ●●●医師会検査センターの■■と申します。抗酸菌塗抹の判定についてお尋ねいたします。

 検体を均等集菌後, 塗抹標本を作製して鏡検していますが, 蛍光で30視野に1〜2個 (±), チールで菌を認めないことがあります。「新結核菌検査指針 2000」によると, いずれの方法でも検出感度に差はないと記載されていますが, 蛍光で菌が見えた場合, チールでも (必ず) 見えると考えてよいのでしょうか??? また, 上記の場合 (蛍光のみで菌を認める時), 結果報告は (±) G1 (ガフキー1号) 相当でよろしいでしょうか??? 経験上, チールより蛍光の方が感度が良いような気がします。

 また, チールで1個でも見えれば, 自信を持って「陽性」と報告出来ますが, 蛍光で1個だと判断に悩んでしまいます。ご教示, お願い致します。

【回答】
「新結核菌検査指針2000」の塗抹検査の項には, 蛍光染色とチール・ネルゼン法では“検出感度に差がない”とは記載されておりません。また「新結核菌検査指針2007」でもそのような記述はありません。

(1) チール・ネルゼン法より蛍光が感度良いと思う。
 その通りです。チール・ネルゼン法は1,000倍で観察しますが, 蛍光染色は200または400倍 (American Society for Microbiologyのマニュアルでは250倍と450倍) で観察します。1,000倍での観察に比べ, 低倍率では1視野あたりの面積が大きく観察できるため, 検出感度は高くなります。低倍率での観察は, 高倍率90視野を観察するのと同等とされています。

(2) 蛍光の30視野で1_2個の場合チール・ネルゼン法でも必ず観察されるか。
 蛍光染色の200倍, 30視野 (1箇所) で1_2個観察されるのであれば, 同一のスライドをチール・ネルゼン法で染色し, 観察して下さい。1,000倍, 300視野 (3箇所) に1_2個観察できるとされています。

(3) 蛍光染色のみ1_2個の場合の報告。
 蛍光染色はチール・ネルゼン法に比べ検出感度は高いのですが, 蛍光性をもつ汚染物を抗酸菌に誤認する場合があります。必ずチール・ネルゼン法などでの抗酸菌の確認が必要です。

(4) 蛍光染色で1個の場合は迷う。
 蛍光染色の全視野で1_2個観察される場合には, そのまま「陽性」と報告しないで, 再検査 (同一材料) や再提出された材料から再検査する必要があります。

(琉球大学・仲宗根 勇)
【追加質問】
 ご回答ありがとうございます。しかし, やはり“検出感度に差がない”と「新結核菌検査指針2000」3頁: 検体の塗抹検査に記載がありますが・・・

 ご回答(2)の方法なのですが, 蛍光観察の後, 同じスライドをチール染色して観察でよろしいでしょうか??? (蛍光観察スライドを, 石炭酸フクシンで加温染色でよろしいですか???) 再度, ご教授願います。

【回答】
 失礼いたしました。確かに3頁「II. 検体の塗抹検査」の項に記載されています。しかし, この記述内容は著者らの誤りだと考えます。蛍光染色の感度 (検出限界) が優れていること, 蛍光染色「陽性」, チール・ネルゼン法「陰性」が多々発生してガフキー報告ができないといった現象は, 質問者自身の経験を含め, よく知られたことです。

 蛍光染色済みのスライドグラスを, さらに石炭酸フクシンで加温染色できますかという質問ですが, 可能です。それぞれの染色に用いる色素の結合部位が異なるためです。抗酸菌の蛍光染色ではAuraminが汎用されています。この蛍光色素は菌のDNAおよびRNAを特徴的に染めます。一方, チールネルゼン染色に用いる石炭酸フクシンは, 常温ではヒドロゾルの状態であり, 加温して冷えるとゲル状になる性質があります。この性質から, 加温染色すると石炭酸フクシンは菌の細胞壁を通過して菌体内に入り, 冷えると菌体内に固着しますす。この原理から, 加温は1回より2回, または3回行ったほうが明瞭な染色像が得られ, 色素は菌体内に定着するため, 脱色にも耐えることになります。

(琉球大学・仲宗根 勇)


【質問者からのお礼】
 わかりやすいご回答有難うございます。特に,“蛍光染色済みのスライドグラスを, さらに石炭酸フクシンで加温染色できますか”に対するご回答は, その原理まで詳細に説明がなされ, 大変勉強になりました。今後ともご指導お願いいたします。


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