08/06/30
■ 抗酸菌??? それともコリネバクテリウム???
【質問】
 ●●大学病院で1ヶ月前より抗酸菌検査に携わっている臨床検査技師です。
 偶然このサイトを発見し, 参考にさせていただいております。
 先日, 腸結核を疑う患者様より小腸粘膜組織の抗酸菌検査が提出されました。

 同じ検体より処理した一般細菌検査は翌日の培養結果では陰性だったため, NALC-NaOH処理をせずにMGITに接種しました。5日後, MGITが陽性となり, 培養液をグラム染色およびチールネルゼン染色を実施したところ, グラム陽性桿菌。チールではややまだらに染まる通常の抗酸菌より短く太い桿菌が見られました。入院患者様であったため, 念のためPCRを実施しましたがMTB, MAV, MINいずれも陰性でした。培養液からは沈さを作成してアシッドプラスにて処理を行ったあと2%小川培地およびビット培地に接種したところ, 翌日には培地全面にびっしりと発育してきたため, このコロニーを再びグラム染色・チールネルゼン染色したところ, MGIT培養液を染色したときと同様の結果となり, 蛍光染色では陰性でした。また, コロニーを血液寒天に接種したところ, 翌日には白色・光沢あり・溶血性なし・直径1 mm程度のコロニーが発育してきました。職場の先輩から, 血液寒天のコロニーとグラム染色の結果からはコリネバクテリウムによく似ているが, 抗酸菌であるかどうかの確認をしてみてと指導されました。教科書的に抗酸菌の定義は「酸やアルコールによって脱色されにくい性質」となっていますが, この酸やアルコールの種類や濃度を変えてみたほうがよいのでしょうか??? ちなみに当院では3%塩酸アルコールを脱色液に使用しています。

 そのほか抗酸菌であるか否かを判定するのに有用な方法がありましたら御教授ください。何卒よろしくお願いいたします。

【回答】
 抗酸性確認のひとつに, 塗抹標本を作成し, 5%硫酸水で1分間脱色し, これに抵抗性を示すものを“真の抗酸性”と判断する方法があります。一度試されたらいかがでしょうか。

 さて, 「抗酸菌と言われる微生物には, Mycobacterium属, Nocardia属, Rhodococcus属, Tsukamurella属などが知られ, 一部のCorynebacteriumも時として弱く抗酸性に染まる場合もある (Sometimes weakly acid-fast)」と書かれている文献もあります。今回の質問者の文章からは菌属または菌種を推定するのは困難です。

 私の師匠達 (三輪谷俊夫先生, 坂崎利一先生, 藪内英子先生: いずれも故人) から教えていただいた共通の言葉は『自分の目でみて判断しなさい』でした。即ち, 電話や手紙による分離株同定に関する質問などに対し, 適当な答えを言ってはいけないということです。質問者がオレンジ色コロニーを黄色と表現した場合, 聞いたほうはレモン色を想像するかも知れないからです。例えば, 今回の質問についても, 顕微鏡所見で≪チールではややまだらに染まる通常の抗酸菌より短く太い桿菌が見られました≫とありますが, (1) まだらに染まっているのは1個の細胞を指しているのか, それとも標本全体がまだらなのか???, (2) 通常の抗酸菌とは何でしょうか???, (3) 短く太いのは, どれくらいなのか??? などの疑問が浮かび, 同一物をみていない間では共通の判断が出来ないことになります。さらに, 培養方法や発育集落についてもしかりです。できれば, この分離株を専門の機関に同定 (遺伝子検査) 依頼し, 菌種が特定 (同定) された段階で様々な生物学的性状を確認してみてはいかがでしょうか。

(大手前病院・山中 喜代治)


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