07/11/13
■ 球菌の分裂と形態
【質問】
 微生物学を学び始めたものです。

 連鎖球菌, ブドウ球菌は, それぞれ分裂の形式が異なり, その結果, 形態にも違いが現れているのだと思います。なぜ, 分裂の形式は異なるのでしょうか??? また, (異なる分裂形式をとる) メリットはあるのでしょうか??? 教えてください。

【回答】

 非常に難しい質問です。かなりの難問です。でも, 悩みながら「回答らしきもの」に挑戦させていただきます。

 確かに, 連鎖球菌は鎖を連ねたように, またブドウ球菌はブドウの房のように増殖します。ご質問について単純明快にお答えするとすれば, 菌の種類により「分裂様式が異なるから」と言うことになります。

 ではなぜ, 分裂の形式が異なるのか??? といえば, それは「それが, そのバクテリアの増殖スタイルだから」ということです。では, それぞれの異なる増殖スタイルにはどんなメリットがあるのでしょうか??? ということですね。

 質問は, 球菌に限定されていますが, 桿菌にも長桿菌, 短桿菌, 球桿菌, 連鎖桿菌等々, いろいろとあります。芽胞を有する菌も, 無芽胞の菌も, 莢膜を有する菌も, 莢膜を有しない菌も, 鞭毛を持つ菌, 持たない菌, そして繊毛を有するもの, 有さないもの, 本当にたくさんあります。さらに, 形態学的見地からの相違点以外に, 代謝系をはじめ, 実にいろいろな点からの相違点があります。何もバクテリアに限ったことではありません。動物にも, また植物も然りです。動物でも卵生, 胎生, 卵胎生と種々あります。それぞれの生物種の進化の過程で, それぞれの生存様式が形成されて来ているのでしょう。

 さて, 球菌の形状ですが, 球菌といっても完全な球形だけではなく, 腎臓形のもの, 半球形のもの, 三角状のもの (ランセット形, 円錐形) など, さまざまなものが存在します。例えば, 連鎖状/双球状/四連状/八連状/ブドウの房状等々, 本当にたくさんあります。特定の球菌がどのような配列をとるかは菌種によってほとんど決まっているため, 配列は球菌を同定する上での判断材料の一つになります。しかし実際に細菌を顕微鏡で観察するときには, 典型的な配列を示さないこともあります。例えば, 四連球菌が常にすべて四個一組で観察されるという訳ではありません。顕微鏡で観察した大部分は四個一組に見えるかも知れませんが, たまたま分離した直後の一個や二個のものが見えたり, あるいは四個の組が密集して八連やブドウの房状に見えたりもします。このように細菌の生育状態や顕微鏡標本の出来具合, 観察している視野などによっても, 観察される球菌の配列は違ってくることがあります。特に, 細菌の発育環境によって分裂様式が異なったり, 極端な例では, 形状そのものがかなり変わってしまうものも知られています。通常は明らかな桿菌なのに, 球状の細胞に変化してしまうものも知られています。この代表的な例としては, ヘリコバクター属菌 (例えばピロリ菌) のコッコイド (coccoid) 化 (球状化) があります。また, 発育環境によって, 極 (単) 毛性の鞭毛が周毛性の鞭毛に変わってしまうビブリオ属菌などもよく知られています。ピロリ菌の球状化については, いくつかの観点からの一応の説明付けもされています。また, ビブリオ属で観察される「液体培地では極毛性」で「固形培地では周毛性」という性質も, 発育環境に合わせて菌自らの DNA に書き込まれている遺伝情報が形質発現したということで, 要するに, そのように形状を変化させることがその環境における必然であると DNA にプログラムされているからなのでしょう。細菌にとって, 自らの形態を変化させることがどのようなメリットを細菌自身にもたらしているかは, 私たち人間には知る由もありませんが, 細菌にとっては, 棲息し, 増殖して, 自らの遺伝情報を次世代へ繋げていくためには必要な“営み”なのでしょう。そういう進化の道をたどって現在に至っている生物なのです。質問の答えになっているのか, いないのか, 自信はまったくありませんが, 精一杯の回答としてご理解下さい。   

(信州大学・川上 由行)


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